僕が真澄の手を取って玄関を出ようとした直後、真澄とつないだ手に反対方向の強い力がかかるのを感じた。
「痛い」
真澄が悲鳴に近い声を上げてつないだ手を離した。そして、真澄はそのまま玄関にうずくまってしまった。僕には何が起こったのかまるで分からなかった。
真澄はうずくまり下を向いたまましばらく動けなかった。少しして、真澄は無理に搾り出したような声で僕に詫びた。
「ごめんね。私、やっぱり、この部屋からは出られないみたい。せっかくランドに誘ってくれたのに、一緒に行けなくて、ごめんね」
 僕は真澄を傷つけないような言葉をどうにか探そうとした。
「気にしなくていいよ。部屋の中でも二人で楽しめることはいくらでもあるよ。うん、そうだな、とりあえずトランプでもやろうか」
「うん、トランプ良いね」
 もちろん、本当に良いと思っているわけではないことは、泣きそうな真澄の声で分かった。
「じゃあ、寝室の方でやろうよ。さあ、立って」
 僕は真澄に手を差し伸べた。僕の手を取った真澄の手は確かに暖かかったが、やはり真澄はこの世のものではないのだという現実を僕は思い知らされた。