シャワーを浴びて体がすっきりした後も、心の方はそうはならなかった。カラオケボックスでの練習中に自分の歌に満足がいかなかったことがまだ気になっていた。結局、歌う気にならないまま、僕は座布団に腰を下ろしてぼんやりと天井を見上げた。
 すると真澄が黙って僕の隣に座った。真澄はしばらくそのままでいたが、沈黙に耐えきれなくなったように口を開いた。
「波照間島の歌、まだできていないの?」
「いや、できたよ」
 僕の声には力がなかったせいか真澄は心配そうに次の問いを発した。
「じゃあ、歌のできがあまり良くなかったのかな?」
「いや、良い歌ができたと思っているよ」
 僕の自信がなさそうなものの言い様と発言の内容がかみ合わないことに真澄は首をかしげた。
「じゃあ、どうして聴かせてくれないの?あんなに期待させたくせに」
 真澄の言い分はもっともだった。
「なんか上手く歌う自信がないんだ。なんとなく、気持ちが伝わらないような気がしてね」
「純さん」
 名前を呼ばれて僕は真澄の方を見た。真澄はまっすぐに僕を見つめていた。その目は、その後の真澄の言葉以上に僕の心を動かした。