八月十六日(日)

 朝食を済ませると僕は再び歌作りに没頭した。そして歌は午前中にはどうにか完成した。
「じゃあ、ちょっとカラオケボックスに行ってくるよ」
 僕は三線のケースを持って部屋を出ようとした。
「いってらっしゃい」
 真澄の声は少々冷たかった。僕の秘密主義がお気に召さなかったようだった。僕は途中で昼食を済ませた後、カラオケボックスでしっかりと伴奏と歌の練習をした。
 完成するまで歌を聴かせたくなかったのは前と同じだった。しかし、今回の歌にかける自分の気持ちはそれまでとは比べ物にならなかった。真澄にはどうしても、決して途中でつかえたりせずに歌を聴かせたかった。今の自分の気持ちを全て込めた完全な歌を届けたいと僕は思っていた。
 しかし、思えば思うほど、僕は自分の歌に満足がいかなかった。結局、納得行く演奏ができないまま僕はカラオケボックスを後にした。

「ただ今」
 僕は自分の言葉に疲れが滲んでいるのがわかった。
「お帰りなさい」
 キッチンに腰を下ろしていた真澄の言葉は相変わらず不機嫌な匂いがした。
 寝室に入ってから僕はリュックを机の上に置き、三線のケースも一先ず定位置に置いた。すぐに歌う気にはなれなかった。