僕が再生のボタンを押すとノートパソコンのスピーカーから三線のイントロが流れ始めた。曲はやがて歌の部分に達した。しかし、スピーカーから流れてくるのは三線の伴奏ばかりで真澄の声はまったく聞こえてこなかった。
「私の声、録音できないんだね」
 真澄が俯いた。僕は何も言えなかった。
「仕方がいないよね。私、オバケだからね」
「自分のことをオバケなんて言うなって言ったじゃないか」
「ごめん、そうだったね」
 俯いたままの真澄を元気付けるために僕は説明した。
「真澄さんが書いた歌詞は絶対に完成した歌として残すから安心して。今は歌詞を打ち込めば歌ってくれるコンピューターのソフトもあるから心配しないで」
「ありがとう。その気持ちだけでもう十分よ」
 泣き出しそうな声だった。
 僕は思い切り真澄を抱きしめてあげたかった。しかし僕には二人の間にある目に見えぬ海を越えることはできなかった。