真澄が歌い始めた瞬間にすでに鳥肌が立っていた。美しい歌声は前からだったが、自分が書いた歌詞を歌う真澄の声の美しさは明らかに今までとは別のものだった。
 しかし、僕はそれ以上に歌詞の内容に打ちのめされていた。それは明らかに僕たちの話だった。どんなに心を通わせて一緒に歌を作っても、お互いに指一つ触れることの出来ない僕たちの物語だった。生者の僕と死者の真澄。僕たちの間には決して超えることの出来ない見えない海が横たわっていた。

 僕は録音停止のボタンを押すことすらしばらく忘れていた。うなだれた僕を気遣うように真澄が恐る恐る言葉を掛けてきた。
「ごめんなさい。こんな暗い歌詞を書いてしまって」
「そんなことないよ。とても良かったよ。」
「そう、ありがとう」
 真澄はぎこちない笑顔を浮かべた。
「じゃあ、録音した歌、聴いてみようか」
「私、あまり聴きたくないな」
「そんなこと言わないでよ、歌詞も良かったけど歌声も素敵だったよ」