あまりにも意外な展開に僕はかなり動揺した。
「真澄さん、すごく真剣に取り組んでくれたのに。どうして?」
 俯いた真澄の返答は声が小さかった。
「私ね、久しぶりに創作に取り組むことができてすごく嬉しかったの。歌詞のできもね、すごく良いと思っているの」
「だったらどうして?」
 僕には真澄の真意がまるでつかめなかった。だから尋ねた。
「こんな歌詞、純さんに聴かせちゃいけないって思ったの」
 真澄の返答は更に謎を深くするばかりだった。しかし、真澄の思いはどうあれ僕は引き下がれなかった。
「真澄さんの気持ちは大切にしたいと思うんだけど、僕はどうしても真澄さんの歌詞と僕の曲を一つにしてみたいんだ。これはやはり物書きの性かな?真澄さんがどうしても嫌だと言うなら諦めるけど」
 俯いたままの真澄が僕の言葉に応えるまでにはかなり時間が掛かった。
「わかった、歌うわ」
 真澄の声はかなり辛そうだった。それでも僕は二人の歌を形にしたいという思いに抗することができなかった。相変わらず、俯いたままの真澄の様子など気づかないような態度で僕は録音の準備を進め、真澄の同意を求めるようなことも言わないまま録音の開始を宣言した。
「じゃあ、始めるよ」
 僕は真澄の顔を横目で見ながら録音のボタンを押し、さっさとイントロを弾きはじめた。すると真澄も観念した様子になった。歌の部分が近づくと真澄は一瞬目を閉じてそれから歌い始めた。