「それで、曲の雰囲気はどんな感じにしたいの。歌詞を読んでいないから明るいのやら暗いのやらさっぱり分からないからね。真澄さんの曲に対するイメージを少し伝えてくれないかな」
「思いっきり暗い曲にして欲しいの。確か今までの歌には短調の曲はなかったと思うから短調で書いてくれないかな?」
真澄は迷う様子もなくはっきりした口調で自分の希望を伝えてきた。
「女性目線の短調の歌か。確かに変化をつけるには良いアイデアだね」
「そうでしょ」
 得意げに話しているのに真澄の顔はどこか悲しそうにも見えた。
 真澄の希望は理解できたが、僕にはもう一つ聞いておかなければならないことがあった。
「それで歌詞は何番まであるの?それと歌詞同士はつながっているのかな?」
「歌詞は三番まであるの。全体で一つのつながったストーリーになっているんだけど、間奏は無しにしてすぐに次の番に行くようにして欲しいんだけど、いいかな?」
「もちろん、そうさせてもらうよ」
「ありがとう。じゃあ、曲ができたら教えてね。」
 前日の消極的な様子が嘘だったかのように真澄の歌作りに対する姿勢は積極的だった。しかし、その割には相変わらず表情に憂いのようなものが感じられた。
 正直に言ってしまうと、僕は真澄の要望に応えられる自信はなかった。僕はそれまで他人が書いた歌詞に曲を付けた経験はなかった。歌詞のストーリーの内容を知らずに語数とイメージだけで曲を書くというのは最初に思ったよりも難しい気がしてきた。
僕は夏休みの宿題をたくさん出された生徒のような気分になった。