「卒業式の日にね。初めて彼と二人で歩いたの」
「そうだったんだ」
 そこで何があったのか僕はすごく気になったが問いただすことはしなかった。しかし、真澄はその顛末をきちんと聞かせてくれた。
「卒業式が終わって教室に戻って、クラスメートはみんな名残惜しそうにしていたんだけれど、ふと彼が一人になった瞬間があったの。私はね、一大決心をして彼に言ったの『帰ろう』って。そうしたら彼、黙って私についてきてくれた」
「それでどうなったの」
 僕はすぐに話の続きを聞きたいと思った。真澄は躊躇せずに話を続けた。
「私たちは一緒にバス停まで歩いたの。でもね、お互いに何も言えなかったの。学校からバス停までは少し距離があったんだけど。結局、二人とも黙ったままバス停に着いてしまったの」
「それで」
 話を急かしてばかりいる自分がなんとなく恥ずかしくなってきた。
「すぐにバスが来て二人で一緒に乗ったけど、やはり黙ったままだったの。私のバス停の方が近かったから、私が先にバスを降りたの」
「それから」
 僕は懲りずにまた真澄を急かしてしまった。
「私ね、彼に飛び降りてきて欲しかったの」
 真澄の言葉が一瞬途切れた。