「今で言う『いじめ』というほどではないけれど、私はなんとなく敬遠されていたから、バスでは、私の班の女の子は誰も私の隣に座りたがらなかったの。彼は仕方がないからみたいな振りをして私の隣に座ってくれたの。私はとても嬉しかったんだけど、クラスメートのいる所で彼と親しく話すことができないから、私たち行きのバスの中では一言も口を聞かなかったの」
「それで」
「バスが海辺の道に出た時に、私、生まれて初めて海を見たの。信じられないでしょう。中学二年の夏休みまで海を見たことがなかったなんて」
 真澄は一度言葉を切ってからまた続けた。
「私ね、夢中になって海を見てたの。そうしたらね、窓側に座っていた彼も、同じように海を見ていたの。その時、私は『ああ、このまま、ずっといつまでも彼と一緒に海を見ていたい』って思ったの」
 僕は真澄の話には続きがあるものと思っていた。だから尋ねた。
「それで、その後、臨海学校の間は何があったの?」  
「別に何もないわ。私たちは臨海学校の間、一言も口を聞かないまま帰りのバスに乗ったの」
「行のバスで、偶然にも一緒に海を見ていた以外には本当に何もなかったの?」