恋に落ちるきっかけ、それは重要な要素だから押さえておくべきだと思った。いざ、聞いてみると、真澄は案外すらすらと二人の馴れ初めを話し始めた。
「私たちはね。二人とも小説が好きだったの。だから、いつも小説の話をしていたわ」
 真澄は少し夢を見ているような目をした。
「それで二人はどんな小説を読んでいたの?」
「ジャンルにこだわらず色々なものを読んでいたわね。でも、昔の田舎の中学の図書室なんて本の数も少ないし、置いてあるのは、いわゆる文学作品がほとんどで、新しい本はほとんど入ってこなかったわ」
「じゃあ、古い本ばかり読んでいたの?」
「ううん、彼の家はお金持ちだったから、彼は次々と新しい本を買ってたわ。私は彼が読み終わった本をいつも借りて読んでいたの」
「なるほどね」
「二人で同じ本を読んで感想を語り合ったりして、とても楽しかったわ」
 遠い昔の話なのに、歳をとらない真澄の顔は恋する少女の面影を残していた。その恋の行方を知るべく僕は次の質問をした。
「それで二人はデートとかしていたの?」
 三十数年前の田舎の村のデート、僕には想像もできない話だった。