「でも、やっぱり、まるで恋をしなかった訳でもないでしょ?」
 真澄の辛い過去を知っているだけに、追及の手を緩めなかったのは少々酷な気がした。
「ええ、それはまあ」
 真澄は少し恥ずかしそうな顔をした。
「じゃあ、聞かせてよ」
 僕はもう一押ししてみた。
「もう、まったく冴えない話だから歌のモチーフにはならないと思うけど」
 真澄はまだ少しためらっていた。
「まあ、それは僕が考えることだから、とにかく話してみてよ」
 僕はあと一息だと思った。
「じゃあ、しょうがないわね」
 ようやく真澄は話す気になったようだった。
「相手はどんな人だったの?」
 僕は真澄が話し出す道筋をつけるために尋ねた。
「彼はね、中学の同級生だったの。地元では結構な名門の家柄の長男でね。成績は学年でトップ。ハンサムで運動神経もよかったわね」
「なんか典型的な初恋の相手タイプだね」
「そうね、正にその通り」
 覚悟を決めたせいか、遠い日のことを語る真澄の眼差しは心なしか優しくなったような気がした。
「で、彼とはどんな仲だったの?ただ見ているだけで終わりってパターンかな?」