しかし、僕は八重山に着いた十八日も次の十九日も天候に恵まれなかった。わざわざ日本の最南端まで来たというのに僕の気分は沈みきっていた。
転機が訪れたのは十九日の午後、その夜から二泊する竹富島の民宿に電話を掛けた時だった。予約を入れた時、船に乗る前に電話を入れるように言われていた。
「はい、のむら荘です」
電話から聞こえてきた女性の声が綺麗だと思った。
「今日予約をしている山崎です。四時半の船に乗ります」
「はい、では、港でお持ちしております」
なぜだか分からなかったが、僕はその美しい声に妙に魅かれた。一体どんな人なのだろうかと思い、僕は竹富島行きの高速船に乗った。
高速船を降りて桟橋に立った瞬間に、僕は電話に出た女性をみつけた。いや、見つけたと思った。彼女が持っているボードに書かれた僕の名前が見えたわけでもないのに、この人だと僕は確信した。彼女の周りだけが、なぜか光り輝いているような気がした。
近づいてみると僕の直感が間違いでないことが分かった。彼女が持っているボードには確かに僕の名前が書かれていた。
「山崎です」
僕が声を掛けると彼女は綺麗な声で応えた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらに」
そう言いながら彼女は僕を駐車場に止めた車の方に案内した。