八月六日(木)

「おかえりなさい」
 帰宅した僕を迎えた真澄を見て驚いた。真澄の姿はもう完全に普通の人と同じに見えた。
「ただいま」
 僕は部屋に上がり、とりあえずリュックを机の上に置いてから改めて真澄の元に近づいた。僕は確かめてみたかった。
「あの、真澄さん、ちょっと手を出してくれないかな?」
 僕は真澄の方に向けて自分の右の手のひらを胸の高さぐらいに挙げて見せた。真澄は僕の意志をくみ取ったのか左手の手のひらを挙げた。
「ちょっと触れてみてもいいかな?」
「うん」
 真澄の答えは決して嬉しそうな様子ではなかった。
 僕が真澄と合わせようとした手のひらはそのまま真澄の手のひらを通り越した。
「見え方は普通の人と変わらないのに、やっぱり触れることはできないんだね」
「そうみたいね」
 真澄は初めからそうなることは分かっていたようだった。
「外は暑かったでしょう。シャワーでも浴びたら?」
 真澄が気まずい雰囲気を破ろうとしたので僕もそれに乗ることにした。
 シャワーを浴びながら僕は考えた。真澄は最初、声しか聞こえなかったし、姿が見えるようになっても後ろが透けて見えていた。僕は相変わらず真澄以外の幽霊の姿など一度も見たことがなかった。もし真澄の説が正しければ、真澄は日増しにより身近な存在になっていっているということなのかと思った。