「真澄さんはどうなの。故郷にいる誰かを思うことはなかったの?」
「全くなかったと言えば嘘になるけど、まあ、ほとんどなかったわね」
 そう言った後、真澄は急に思いついたらしいことをそのまま口にした。
「ねえ、純さん。与那国の歌は望郷の歌にしたらどうかしら?そうすれば他の歌の歌詞とは違った感じを出せるんじゃないかしら?」
「でも、僕は東京の出身だよ」
 話が歌作りの方向に向かうとは思わなかったので、不意を突かれたような気がした。
「そうね、でも歌は実話である必要はないし」
「まあ、そうだけど」
 戸惑う僕を尻目に真澄は楽しそうに自分の考えを語り始めた。
「純さんは、与那国にいて、私のことを思ってくれたんでしょ」
「まあね」
 そう答えると真澄は更に嬉々として続きを話した。
「私はここで夕陽を見ながら純さんのことを考えていた。だから私たちの立場を逆にしてしまえばいいのよ」
「どういうこと?」
 真澄の意図が少し分かりかねたので聞くと、真澄はすぐに答えた。
「純さんはここで夕陽を見ながら与那国にいる私のことを考えてくれたことにするの」