「私ね、ここから夕陽を見ていたら、なんだか切なくなっちゃった」
「どうして」
 尋ねると、真澄はどちらかと言えば明るい口調で答えた。
「与那国島って、日本で最後に日が沈む場所なんでしょ。『ああ、この夕陽はこれから純さんのいる場所に行くんだな』なんてことを思ったの」
 そう答えた真澄はどこか遠くを見るような目をしていた。
「そうか、僕もね、旅の間に何度か真澄さんのことを考えたんだ。真澄さんに見せてあげたいと思った景色がたくさんあったよ」
「私がちゃんと生きていれば、電話もメールもできたし、写真だって送ってもらえたのにね」
 真澄は言った後、すぐに後悔したような表情を浮かべたが僕は気づかないふりをして敢えて一般論で答えた。
「ああ、そうだね。今は離れていても簡単に人と繋がれる時代だものね」
「でも、やっぱりお互い傍にいるのが一番だと思うな」
 真澄は僕の方を見ていた。
「確かにそうだね。僕は遠くにいる人を思う気持ちというのを初めて経験したよ」
「そう、それって幸せなことだと思うな」
 少し気になる台詞だった。だから何気なくさらっと尋ねることにした。