「でも、ちゃんと帰って来てくれたわ。私ね、本当は、純さんはもう帰って来ないかもしれないって思ってたの」
 意外な言葉が飛び出し僕は少し慌てた。
「そんなことあるわけないじゃないか」
 僕はすぐさま真澄の空想を否定した。
「そうかしら、やっぱりオバケと一緒に暮らすのが嫌になったとか、旅先で良い人に出会ったとか、ここに帰りたくないと思う理由ができても不思議ではないし」
 僕は真澄の言葉に少しだけ腹が立った。
「だから、もう自分のことオバケなんて言うなよ」
 少しきつくなってしまった僕の言葉に真澄は泣きそうな声で答えた。
「うん、もう言わない」
 僕は真澄が可哀そうになり明るい方向に話題を変えたいと思った。だから僕はなるべく明るい口調で真澄に尋ねた。
「真澄さんは、僕がいない間、他に何を考えていたの?」
「そうね。純さんは今何をしているのかなとか、与那国の歌はもうできたのかなとか、そんなことかしら」
 僕の意図に気づいたようで真澄も明るい声で答えてきた。
「そうなんだ」
 僕は少しほっとしたが、その後の真澄の言葉は必ずしも明るい話ではなかった。だが、そこには悲しみや苦しみの匂いはなかった。