八月五日(水)

 旅の最終日、与那国空港で飛行機を待ちながら、僕は初めて感じる気分を味わっていた。いつもなら帰りたくないという気持ちになるところだった。
 しかし、その時は、ここまで来てしまったからには早く帰りたいと思っていた。僕は早く真澄に会いたいと思っていた。旅で経験したことを話したかった。撮った写真を見せたかった。そんな気持ちになっている自分に、僕自身ひどく驚いていた。

「おかえりなさい」
アパート戻ると真澄が笑顔で僕を迎えてくれた。帰って来たのだと思った。
「ただいま」
 幾度となく旅をしてきたが、家に帰ってほっとした気分になったのは初めてだった。真澄の姿は、もはやほとんど普通と変わりなくなっていた。あえて言えば、どことなく存在感が薄い気がするという程度でしかなかった。
「純さん、旅はどうだった?」