不動は、好意を抱いていたせいか祐子にはいじめの矛先を向けなかった。不動のいじめの方向はもっぱら僕にだけ向いていた。
 それでも、祐子だけは僕の味方だと言ってくれた。しかし、それも長くは持たなかった。ほどなく、僕は祐子から別れ話を切り出された。祐子はあれこれと別れの理由を並べたが、それは如何にもとってつけたようなものばかりで何の説得力もなかった。祐子もあっさりと僕を無視する側に回ってしまった。
 それでも、僕は学校に通い続けた。学校に来なくなったら自分の負けだと思った。家族にも、先生にも、相談はしなかった。一人で乗り切るべきことだ、そして、自分にはそれができるはずだと、自分に言い聞かせて毎日耐え続けた。
 しかし、ある日、ついに糸が切れた。もう、何もかもどうでもよくなった。僕はどこか遠くへ行きたいと思った。そして、地図を見た。雪の降る北にはさすがに行く気になれなかった。そこで、南を見た。日本の南の果てに、東京から最も遠い場所、八重山諸島をみつけた。そこはもう台湾に近かった。
 わずかな時間遠くへ行ったところで、いじめが解決することがないことは分かりきっていた。それでも、僕はただ逃げたかった。どこか遠くへ行きたかった。愚かなことをしているという自覚はあったが、結局、僕は八重山の玄関口である石垣島行きの飛行機に乗っていた。平成十九年一月十八日のことだった。