八月四日(火)

 その日、僕はダイビングに行った。与那国のすぐ近くには通称「海底遺跡」と呼ばれる有名なダイビングスポットがあった。僕にとって与那国への旅の主な目的は、まだ見たことがなかった「海底遺跡」を見ることだった。
「海底遺跡」は簡単に言えば、城の土台がすっかり海底に沈んでしまったようにも見える不思議な地形だった。どう見ても人が作ったとしか思えないような階段状、あるいはアーチ状の岩があったり、岩の表面に、これまた人が彫ったように見える模様があったりで、何かの遺跡ではないかと思われたのも不思議ではなかった。
 ネット上の百科事典によれば「海底遺跡」は自然の造形であると科学的には結論付けられていると書いてあったが、人工であろうとなかろうと、とにかに「海底遺跡」は僕の心を魅了した。
 「海底遺跡」を見るダイビングツアーは人気があり、しかも夏休みだというのに、なぜだか参加者は僕一人だった。そのせいもあるのか僕は孤独も感じていた。この光景を真澄にも見せてあげたかったと何度も思った。後で写真を見せることはできたが、やはり実物の持つ魅力が伝えられるとは到底思えなかった。