八月三日(月)

「じゃあ、行ってくるね」
 与那国に旅立つ朝、背中に大きなリュックを背負い、三線のケースを持ち、僕はアパートの玄関に立った。
「ちゃんと帰って来てね」
 なぜか真澄が少し不安げな顔をしたような気がした。
「当たり前じゃないか、じゃあね」
「いってらっしゃい」
 僕は見送られて部屋を出た。約四ヶ月ぶりの八重山行きだというのに僕の心はいまひとつ浮き立っていなかった。真澄をまた独りぼっちにして自分だけが旅に出てしまうのがなんとなく後ろめたかった。

 日本最西端の島である与那国島に行くのは実に久しぶりだった。他の八重山の島々へは石垣から高速船で渡れたが、与那国島だけはそうはいかなかった。フェリーはあるにはあったが、四時間もかかる上に揺れがひどく、誰もが死ぬほどの船酔いをすることで有名だった。そんなわけで僕は飛行機を利用した。与那国島から台湾まではわずか百二十キロ、正に国境の島だった。

 与那国島に着くと僕はレンタカーを借りて島を回った。与那国島が他の八重山の島々と違うところは石垣からの距離以外にもあった。与那国島は基本的に断崖絶壁の島でカイジ浜のような広い砂浜がないのだ。与那国馬という日本在来馬がいるのもその一つだ。島の東端にある東崎の辺りでは馬や牛が平気な顔をして一般道を歩いているという不思議な光景も見られた。