「ただいま」
 僕がドアを開けると、真澄はまるでずっとそこで待っていたかのように戸口に立っていた。
「お帰りなさい。ずいぶん、遅かったわね。私、待ちくたびれちゃった」
「ごめん、ごめん。思ったより作業に時間が掛かったんだ」
 僕は靴を脱ぐとすぐに寝室のテレビの前に向かった。座布団はまだ前日のままテレビの前に並んでいた。僕はノートパソコンをテレビにつなぎビデオを再生する準備をした。完了したところで真澄に声を掛けた。
「お待たせしました。上映の開始です」
 真澄は小走りでやって来ると僕の隣の座布団に腰を下ろした。
「いよいよ二人で西表に出発ね。なんかすごく楽しみだな」
「あんまり期待しないでね」
 僕はそう言い置いてからビデオの再生を始めた。

 まず、真っ黒な画面から「いるもて紀行」というタイトルが浮かび上がってきた。「いるもて」は西表の古い呼び名だ。イントロの開始と共に画面は石垣行の飛行機の出発時間の表示、飛行機の機体、西表行きの高速船の出発時刻の表示、それから高速船の船体へと変わった後、歌が始まった。