真澄の表情が曇った。まずいと思い僕はすぐに次の言葉をつないだ。
「ああ、もちろん歌の中での話だけどね。歌詞に合った写真を選んで、歌と連動して画面が変わってゆくビデオを作ろうと思うんだ」
「つまりカラオケビデオみたいのを作るわけね」
「そう、真澄さん、西表に行ったら何がしたい?」
「そうね」
 考えている真澄の顔にはすでに明るさが戻っていた。
「はい、先生!」
 真澄は指の先までまっすぐにして右手を挙げた。
「はい、玉木さん」
「私、シーカヤックでマングローブの奥まで行きたいです」
「よろしい。許可します」
 真澄は少し嬉しそうな顔をしてからまた右手を挙げた。
「はい、先生!」
「はい、玉木さん」
「私、サガリバナを見に行きたいです」
「却下します。サガリバナの歌はこの前に聴いたでしょう」
 真澄は少し口を尖らせたがすぐにまた右手を挙げた。
「はい、先生!私、シーカヤックで珊瑚を見に行きたいです」
「よろしい。許可します。では、もう一つだけ希望を言ってください」
 真澄は少し考えてからまた手を挙げた。
「はい、先生!私、ピナイサーラの滝の上に行ってみたいです」