僕は三線ではなくフォークギターを取り出して、敷いたままになっていた座布団の上に腰を下ろし調弦を済ませた。
「真澄さん、こっちに座って」 
 僕は隣の座布団を指さした。真澄は渋々と僕の隣に腰を下ろした。
「この歌なら知ってるよね」
 僕は真澄に返答の機会も与えないまま、両親の世代なら間違いなく知っている歌のイントロを弾き始めた。歌の部分に入ると真澄はきちんと僕に付き合ってくれた。
 最初の気乗りしない様子がまるで嘘のように、いざ始めてみると真澄は実に楽しそうに歌った。一緒に歌うということは、歌作りを助けるとか助けられるではなく、同じ立場で僕たちが共にできる数少ないことの一つだった。真澄の歌声はとても美しく、僕は何度か自分だけ歌うのを止めて真澄の歌に聴き入ってしまった。
「純さん、私にだけ歌わせるなんてズルいよ」
 僕はその度、真澄のお叱りを受けた。
 それ以来、僕の作った歌や二人が共に知っている歌を一緒に歌うのが僕たちの毎日の楽しみになった。
 
 その後、僕たちはキッチンのテーブルで五曲目の歌の打ち合わせを始めた。