僕が朝食を済ませコーヒーを飲んでいると、真澄はすぐにでも次の歌の打ち合わせを始めたいという顔をしていた。しかし僕は真澄の期待を裏切るような別の提案をした。
「真澄さん、今日と明日はバイトも休みで十分時間があるから、次の歌作りの前に少し別のことをしてみたいんだ」
「へえ、何をするの?」
「気晴らしに一緒に歌を歌わないか。聴いてもらってばかりじゃ申し訳ないし」
 そうは言ったものの、それは半分嘘だった。真澄と一緒に歌ってみたいというのは嘘ではなかったが、本音を言えば僕は真澄の歌が聴いてみたかったのだ。
「ええ、でも私、あんまり最近の歌を知らないのよね」
 真澄はあまり乗り気ではなかった。
「真澄さんは僕の両親と同じ年の生まれだよね。両親が若い頃の歌のCDをよく聴いていたから、自然と覚えてしまった歌がたくさんあるんだ、だから、一緒に歌ってみようよ」
「私、純さんみたいに上手に歌えるとは思わないけど」
 真澄は相変わらず消極的だった。しかし、僕はそんな真澄の態度は無視してさっさと歌の準備を始めた。
「ああ、昔の歌を歌うならギターの方がいいね」