七月三十一日(金)

 夜、八時頃、僕は寝室の机に置いたノートパソコンに最後の音符のデータを入力した。出来上がったメロディーを聴き終えてヘッドフォンを外すと、背中で真澄の声がした。
「できたのね」
 真澄の姿はかなり輪郭がはっきりとしていて、後ろの壁も微かに透けて見える程度になっていた。
「ああ、できたよ」
「聴かせてくれる?」
「ああ、もちろん。じゃあ、あそこに座って」
 僕はガラス戸の前に置いたままになっていた座布団を示した。移動する真澄の足取りは、もう宙に浮いたような感覚はなく普通の歩き方に見えた。僕はケースから三線を取り出すと真澄の隣に座った。調弦を済ませた後も、僕は歌いだすのを少し躊躇してしまった。
「どうしたの?」
 真澄に聞かれた。
「なんだか聴いてもらうのが恥ずかしい気がするんだ」
「良いんじゃないかしら。ちょっと変わった歌ができたってことでしょう」
「まあ、そうだけど」
「聴かせて」
 真澄に急かされた僕は覚悟を決めてイントロを弾き始め、そして歌に入った。