「というわけで、楽しかったけど。全然、ロマンチックじゃない再会だったんだ」
「そうね、純さんにとってはね」
 真澄は悪戯っぽく僕の顔を見た。
「でも、宏君と早苗さんにとっては感動の再会だったわけでしょ?」
 確かに真澄の言う通りだった。
「だから、宏君と早苗ちゃんをモデルにして石垣の歌は作ってみたらどうかしら?」
 確かにそれは面白いアイデアだった。しかし、それに続く真澄の提案は僕にすればかなり大胆な内容だった。
「悪いことじゃないんだけど、純さんの歌はどれもみな真面目なものばかりでしょう。だから、たまには、もっと甘ったるくて、馬鹿っぽい歌詞を書いてみても良いと思うの。実際にはなかったことやロマンチックな脚色もたくさん入れてね。曲もアップテンポのノリの良い曲にするの。つまり、純さんの好みと正反対のような歌を作ってみたらどうかしら?」
 そういう歌を作ろうと思ったことは無かったが、真澄の意見には頷けるところがあった。
「そういう歌を作って、ちょっと殻を破るっていうか、違う方向性を探してみるのも良いんじゃないかな。そして、そういう試みは残りの五つの島の歌を作るのにも生きてくるんじゃないかしら?」
 少し身を乗り出して、まっすぐに僕を見つめる真澄の目には妙に説得力があった。
「そうだね。じゃあ、早速、取り掛かってみるよ」
「うん、頑張ってね」
 真澄の励ましの言葉を受けてから、僕は立ち上がり寝室にある机の前に腰を落ち着けた。しばらく創作に没頭して、ふと振り返ると、もう真澄の姿はキッチンにはなかった。