僕たちの恋人同盟

帰り道、四人でバスに揺られていた。
ゆっくり、夕暮れが沈んでいくのを俺は窓から見つめている。隣には、咲斗が俺に肩を預けて寝ていた。
反対側の席で、理斗と来斗がスマホの画面を見せ合い、笑っている。
「次は、佐々木ー、佐々木ー」とアナウンスが流れる。
「咲斗、降りるから、起きろ」
俺は、咲斗の肩を軽く叩く。
「んー、嫌だ。あと五分」
「嫌じゃない。起きろ」
「あと五分」
ったく、しょうがないな。
俺達以外、人、居ないし。
「こうしたら、起きるか?」
俺は、顔を近づける。
何かを感じたのか、咲斗は、パチっと目を開けて、また、顔を腕で隠した。
「自分で起きるから!」
「よくできました」
「ずるい、湊斗」
丁度、バスが止まる。
「またですか」
「良いなー、咲斗」
理斗と来斗が先にバスから降りる。
「来斗、覚えてろよ」
と言って悔しそうな咲斗の頭をなでて、俺は、立ち上がる。
「だから、やめろ!」
「照れ隠しも可愛い」
「うるさい!早く、降りるぞ」
バスを降りて、また、四人で並んで歩きだす。
「もうすぐ、七月か」
「夏休みだ!」
「その前に夏期講習と文化祭の準備だろ」
「あぁ、それがあった」
「良いじゃん。こうやって、集まれるし」
「だな」
夏期講習か。最終日のテスト対策しないとな。
「あっ」
突然、咲斗が立ち止まる。
「どうした?」
「あれ」
咲斗が指さしたのは、町の掲示板だった。
そこには、花火大会のポスターが貼られていた。
八月の終わりに開催らしい。
「今年もやるんだな」と理斗が呟くと、俺と咲斗は、拳を合わせる。
「行こうぜ」
「ああ」
「楽しみだな」と来斗も理斗の隣で呟く。
花火大会も毎年、四人で行く恒例行事だった。
「着るだろ、浴衣」
「もちろん」
「俺も」
「着る!」
それから、屋台とか花火の話題で持ちきりになり、気づけば、理斗と来斗と別れる十字路に着いた。
「じゃ、また、明日」
「またなー!」
二人を見送って、俺達は、二人で歩きだす。
「湊斗、バイト、次、いつ?」
「確か、明後日の午前中」
「俺もだ」
「明後日、集まるのは、午後からだな」
会話が途切れる。
「あのさ」
「なんだ?」
「俺、今年も期待してるから。
まだ、着てないやつ、着てこいよ」
すると、咲斗は、笑った。
「ある」
咲斗の親戚が浴衣を作っていて、半年に一回、咲斗の家族は、それぞれに合った、新しい浴衣を貰っている。
「楽しみにしてる」
「ああ。でも、湊は、あの浴衣にしろよ。
お前は、あれが一番だから」
「分かった」
また、会話が途切れる。
「湊斗、手、繋いでいいか?」
「ああ」
返事をするが、咲斗が俺の手を取る前に自分から、咲斗の手を取った。
「ずるいぞ」
「早いもん勝ちだ。それに、ずるいって言うの、何回目だよ」
「俺、そんなにずるいって言ってたか?」
「ああ、バス、降りる前も言ってたし、可愛いかった」
「湊斗こそ、また、可愛いって言ったな」
「俺は、良いんだよ。お前がずるい」
「そんな事、無い...とは思う」
「自覚あるんじゃない?」
「やっぱり、お前、朝の事、根に持ってるな!」
いや、そんな事、無いが、持ってる事にするか。
「...持ってる」
「ごめんって!もう、しないから!」
「分かってる」
「ほんとかよ」
あれやこれやと話していると、家の前に着く。
「着いたな」
「ああ」
「また、後で、電話して良いか?」
「良いぜ。咲斗からだったら、いつでも、待ってる」
「サンキュ。じゃ、行くか」
「そうだな。電話、待ってるからな」
「ああ。またな」
「後で」
お互い、名残り惜しく、繋いでいた手を離した。
その夜、咲斗から電話が来たのは、寝る準備を整えている時だった。
「悪い。寝る前だったよな」
「別に良い。ずっと、待ってたし」
俺は、ベッドに座って、電気を消す。
「好きだ」
電話で聞くと、いつもより、驚くのと嬉しさがあるが、それを隠して、言葉を返せるようになった。
「知ってる」
電話を始めると最初は、同じ会話になる。
「そんなに勉強ばっかしてると疲れない?」
寝る前に勉強をしている事を知っている咲斗のいつも、この一言から、会話は、始まる。
「お前こそ、ゲームばっかしてると、夏期講習のテスト落ちて、補習になるぜ」
「だよなー。でも、夏休みだからこそのゲームじゃん」
昔から、咲斗は、ゲームが趣味で、部屋の中は、ありとあらゆるゲームが置いてあった。
よく、一緒に遊んでいた事も覚えている。
だけど、高校受験の時くらいからか、家で遊んだのは、数えるくらいしかない。
「その理屈が俺には、分からない」
「湊斗、ゲーム、嫌いになった?」
「そういう訳じゃないが、俺は、咲斗と居る時間が無くなったら、困るから、勉強、頑張るよ」
「えぇ!?湊と居る時間が無くなるのは、俺も嫌だ!
湊斗、俺、頑張るから、勉強、教えてくれ!」
「それじゃあ、また、理斗達、誘って、図書館だな」
「だな。でも、四人も良いけど、俺は、二人で会いたい」
「えっ?」
「四人で居るのは、楽しい。だけど、たまにさ、湊斗が、''二人で,,って誘ってくれないかなとか、思ったりしてる」
なんていうか、珍しいけど...。
「俺が理斗とばかり話すから、嫉妬ですか?」
「ああ、そうだ!俺だって、妬くんだよ!」
女子だけじゃなくて、恋人持ちにも妬くとは、一途で、可愛いやつだ。俺のだけど。
「咲斗は、ずっと、来斗と話してるじゃん。理斗が妬いてた」
「理斗が、って、お前は、来斗に妬かないのか?」
「正直言って、妬いてる。だけど、お前が笑ってるの見てるのが好きなんだよ。理斗だって同じだ。来斗が笑ってるのが、嬉しいんだ」
「なら、良い」
少し、照れてるな。
「今度、休みで集まる日の何処かは、午後からにしようぜ。それなら、午前中、二人で何か、出来るだろ。
久しぶりにデートしよう」
「やった!約束だからな!」
「ああ」
ちょろいな。だけど、楽しみなのは、一緒だ。
「そろそろ、寝よう」
「明日も学校だからな」
また、声が寂しそうだ。
「また、明日」
「おやすみ、咲斗、愛してる」
「えっ?!」
次は、声が裏返っていたが、そのまま、電話を切る。
明日の朝がどうなるか、分からないが、これで良い。
デート、楽しみだな。
俺は、咲斗と話せた事に、大満足。
ベッドに入り、眠りについた。