人混みが少ない場所を探していると、さっき、居た、ベンチを思い出した。
「さっきまで居た、ベンチに行こう。あそこなら、人、少ないと思う」
「ああ。そうだな」
「急ごう」
そして、ベンチまで戻ってきた。
「間に合ったな」
「座ろう」
ベンチに座って、空を見上げると、ヒューと音が響き、花が咲いた。
「おおー!」
「綺麗だな」
「ああ」
「たまやー!!」
次々と花火が空に咲く。
「四人で見れて、良かった」
「だな。俺も嬉しい」
「俺も!」
「来年も見よう」
「もう、来年かよ」
「良いだろ。約束は、約束なんだよ」
「確かにな」
「珍しく、湊斗が賛同した」
「約束してたら、繋がっていようって約束になるだろ」
「そうだな」
花火は、二十分ほど、上がり続けた。
「あーあ。もう、終わりか」
「また、来年だな」
「もうすぐ、秋が来る」
「次は、文化祭か」
「理斗の衣装、楽しみにしてるぜ」
「ああ。俺がデザインして、作ったんだ。お前に、
絶対、似合う」
「やった!」
俺は、鞄の中から、あるものを取り出す。
「あのさ、俺、線香花火、持ってきたんだけど、やるか?」
「ナイス、湊斗!」
「やる、やる!」
「咲斗、神社の人からバケツ、借りて、水、汲んできて」
「任せろ!」と咲斗が走り出す。
「浴衣、気をつけろよ!」
俺が叫ぶと振り向いて、咲斗が言った。
「ああ、行ってくる!」
「まさか、湊斗が花火、持ってくるなんてな」
「見るだけじゃ、足りないし、もう少しだけ、一緒に居たいとか思ってたら、家にあるやつ、探してた」
「他の祭りとかは、一時間、花火、上げるけど、ここは、三十分とかだから、時間、余るくらいだよな」
「ああ。だから、少しだけならと思ったんだ。二人が仲直り出来なかったら、咲斗と二人だったかもしれないし」
「それは、ずるい」
「恋人だから、ずるくは、無いぜ」
「あっ、そっか」
「ったく。来斗には、俺が居るだろ。俺と二人で花火は、駄目なのか?」
「えっ?!えっと、やりたい。二人でやりたいよ?」
急に上目遣いになる来斗。
「可愛いすぎだろ」
「俺、可愛いのか!?」
「理斗もついに、湊斗と同じ事、言い出したか」
咲斗がバケツを持って、戻ってきた。
「いや、今のは、来斗がずるい」
「俺がずるいって、なんだよ、理斗!」
「なんで、可愛いんだろ、俺」
「ああ。咲斗は、可愛い」
「湊斗が言うなら、そうなんだろうな」
「早く、花火しようぜ」
「ああ。今、配る」
俺は、袋を開けて、一人、一本、線香花火を配る。
「それじゃあ、火、着けるぞ」
全員の花火に火を着ける。
「着いた!」
「動くなよ」
「皆で終わりたいな」
「最後は、俺が残る!」
火を着けた線香花火は、小さな赤い玉になり、パチパチと音を立て始める。
「綺麗だ」
「終わらないで欲しい」
「ああ」
「ずっと、見てられるよな」
突然、二つの火玉がほぼ、同時に落ちる。
「終わってしまった」
「俺も」
残りは、俺と咲斗だ。
「消えるなよ」
「そうだぞ。落ちるな」
俺達は、花火に、消えるな、落ちるなと念を送り続ける。
「あっ」
そして、ふっと、俺達の花火が消えた。
「消えたあ」
「落ちてないから、普通に終わったんだな」
「まだ、やりたい」
「もう、花火は無いぞ」
「うん」
咲斗と来斗は、しょんぼりしている。
「物足りないのは、俺達も一緒だ」
「後片付けして、帰るぞ」
俺と理斗がそう言うと二人は、立ち上がる。
「そうだな。時間も時間だし」
「俺、バケツ、片付ける」
「ああ。頼む」
片付けを終わらせて、四人で神社を出る。
「あっという間だったな」
「屋台の食べ物、もっと、買えば良かった」
「もう少し、早く、集まれたら、時間、あったかもしれなかったけど」
「それに、どっかの二人は、先に屋台、周ろうとしてたしな」
「そっちの彼氏は、花火、隠し持ってたじゃないか」
「なあ。聞こうと思ってたんだけど、復活で良いのか?」
「何が?」
「恋人同盟」
理斗と来斗は、笑った。
「ああ」
「もちろんだ」
「良かった」
「だよな」
「明日は、何する?」
「学校、始まるから、放課後だな」
「どこでも行ける」
「ボウリング、行きたい」
「いいな」
「行こうぜ」
こうして、夏祭りの夜は、更けて行った。