翌日、私は父へ呼び出された
娘に興味ない父が今更、と思いながらも
そこには父と、叔父がいた
叔父がいるのに驚きながらも、私はゆっくり席に着いた
叔父は私の方を品定めする様な瞳で見ていた
その視線が怖くて私は俯いてやり過ごした
『お前に縁談の話がきた 醜い姫を嫁に
という物好きの奴らからだ』
その物好きの中には、きっと身体目的の人も含まれているだろう
妻を所有物だと思う人も
『その縁談を、お受けになるべきですか?』
恐る恐る聞くも、父は表情を変えない
父の意図が見えず、困惑する
それとも思うことがなく、娘ではなく他人としてみているのか
『お前は、結婚したい相手はいないのか?』
答えるべきか迷った
けれど、彼の顔が急に目に浮かび、戸惑ったが私は頷く
『はい、慕っている方はいらっしゃいます』
『隣国の王子か?』
ゆっくり頷くと父は私に一つの紙を渡した
その紙には、彼とこれ以上関わらないで欲しい
とのこと
それを反した場合、姫という立場を剥奪してもらうと書かれていた
『お父様…これは?』
『これ以上、王子と関わるなとのことだ
王子は大事な時期の為、判断を狂わせる
行いをするなとのこと
反故にした場合、お前をこの国から追放
しなくてはいけなくなった』
突然の国からの指示に私は戸惑いつつも、言葉を選びながら申し入れる
『…一度彼と話をさせては頂けないですか?
約束したのです…お父様…』
それを遮る様に今まで黙っていた叔父が口を出した
『姫、これは国に関することですよ
私達は否と言う訳にはいかないのです
姫の行動一つだけで、国を揺るがしかねない
それをお分かりでのことですか?』
自分でもわかってる
けれどこれは彼の父の言い分だ
彼の口から聞きたい 真実を
『わかっています けれど私が彼に
何をしたと言うのです?
理由が明確ではない限り、納得できません
納得する理由でしたら、私は彼に近づきません』
それの言葉に叔父はそれ以上口を出せなくなり
父は険しい顔をしながらも提案をする
『ではこの件はお前に一任する
その結果、追放されたとしても私は
知らないからな』
『ええ、それでいいです
私は姫という立場に、未練というものはない
ですから
今、この場で剥奪されても受け入れる所存です』
その言葉は偽りはなかった、本心だ
私の発言に、驚くことなく
父は腰を上げ、叔父も続く様に退室した
その場には私一人になった
『やっぱりお父様にとって私はどうでも
いいことなのね』
わかっていたことなのに、少し期待してしまった
いざ父の言い分を耳にすると、やっぱり心が少し痛かっ
た
小さい頃から、父と向かい合うだけで怖気付いてしまう
怖いのだ
父よりも、王という威厳が強いからかもしれない
笑ったところも見たことないし、何が好きなのかもわからない
昔、子供ながらに贈り物をしようとした
自分で作った小さな花束を
世話係もお墨付きの、綺麗な花束
これを渡して、少しでも会話に繋がればいいと思ったから
届けようと父を探し、城内を歩き回った
どれくらい歩いたかわからないぐらい、城内は広くて
子供の足では限界を超えていた
足が疲れてしまい、立ち止まり花束に視線を落とすと花束が萎れてしまっていた
すぐ渡せると思っていたから、何も考えずに飛び出したのも悪かった
花は寿命が短いのだ
水に浸さないと、花は萎れて死んでしまう
もうこれは渡せない、そう思い自分の部屋へ帰ろうと
踵を返す。
来た道をとぼとぼと、歩いていると父とすれ違った
父は自分に興味ないようで、娘にすれ違っても話しかけてこなかった。
やっと見つけたのに、けど声をかける勇気はなくて
目に涙をためながら、早足で部屋へと帰った
その様子を気に留める人は、誰もいなかった
そこから私は父と話すことがさらに怖くなり
用がある以外は、極力近づかないことにした
お互いきっとそのほうがいい
けれど、心はずっと傷んでいる
もう修復が不可能なくらいに
そんなある日、我が城に来訪者が来たらしい
父には部屋から出てくるな、と言われた
いつもふらふら出歩いている訳ではないが、
父の言葉に従い、部屋で1日を過ごす
午後に差し掛かると、突然ノックの音が聞こえた
私の部屋をノックするのは限られた人だ
侍女か、衛兵 それと彼だけだった
不審に思いながらも、恐る恐る声をかける
『…どなたですか?』
『貴方と話がしたいの
開けてくださらない?』
女性の声だ 今日の来訪者の一人かも知れない
けれど、それなら父が呼びに来るはず
戸惑うが、再度声をかけるのでやむを得なく
顔を覆うヴェールをして、扉を開ける
そこにいたのは綺麗な女性だった
艶のある金色の髪、美貌を引き立つような美しい唇
容姿だけで分かるぐらいに美しかった
そんな女性が私に何の用だろうか
彼女を部屋に招き、侍女にお茶の手配を指示する
お茶が来るまで彼女はじっと私を見つめる
いたたまれなくて私は視線を下に向ける
お茶がくると彼女は話し始めた
『まず初めまして、私は隣国の王子の
幼馴染です 急な来訪なのに受け入れて
いただき感謝いたしますわ
貴方の噂は聞いていましてよ
醜い姫、と有名だとか』
それから彼女は私の心を抉るように
彼に対しての思い、そして私を嘲笑うように話し始めた
『私、彼を愛してるの だから縁談を申し
入れたのだけれど…断られてしまって
その理由が貴女と知ってどんな人かと
思ったけれど…
想像以上に酷い容姿ね』
今まで浴びてきた圧、言葉 鵜呑みしないように心を強く保つように、拳を握りしめる
『産まれないほうがよかったぐらい酷いわね
あら、ごめんなさい 言葉が過ぎたわ』
勝ち誇ったように、彼女は笑みを隠すように口元に手を添えた
だけど、彼女の赤い口紅がそれを引き立て
かえって目立っていた
『いえ、お気になさらず』
『優しいのね、ここまで言われても反論
しないなんて、おかしいわね貴女』
『反論しても変わらない、と分かっています
私の取り柄は心の強さだけですから』
彼女は小さく『おかしな人ね』と再度いい
話を戻す
『憶測でしかないですけれども、
彼は貴女を信頼し過ぎて、判断を誤って
いる
縁談という形ではありますが
国を揺るがしさかねないことです
国の為か、自分の為か…
答えは前者に決まっているのに
だから彼の為に、彼の前から
消えてちょうだい』
はっきり、『消えて』と言われ、口の中の渇きを誤魔化すように唾を飲み込んだ
『消えるとは、どういう事で?
死ね、と言うことでしょうか?』
声が震えていたのかもしれない、そのせいで顔も引き攣っているであろう
『この国から去る、それだけでいいです
貴女の父にも話をさせてもらいました
好きにしていい、とのことで
父にさえ、愛されていないのね』
やっぱりと想像通りだった
けれど私は彼に真実も聞いていないし、告白の返事もしていない
私は初めて反論をした
『無礼を承知でいいます
それは貴女の言い分ですよね?
私は彼の口から聞いた上で、その提案を
受けるか、否か判断したいのです』
反論されると思っていなかったのか、彼女は少し口籠もりながらも反論する
『けれど…!私は彼の為を思って!』
『彼のことを思っているなら、こんな提案
しないのではないでしょうか?
縁談を断られているのでしょう?
私なら潔く身を引きます
それは間違っていますか?』
私の問いに彼女は何も言えなくなり、唇を噛み締め、急に立ち上がり勢いよく、私の胸ぐらを掴む。
『貴女に何がわかると言うの?
醜くて、生きてることさえ価値のない姫が!
私の思いがわかるはずがないわ!』
彼女の悲痛な声が部屋に反響する
『その通りです、私に貴女の思いがわかるはず
ありません
そして私の思いも貴女に分かるはずがない』
その言葉が彼女の胸に、どう伝わったのかはわからない
けれど、悔しそうに、憎悪の瞳を私に向ける
そして彼女が私の頬を叩こうと、手を振りかざした時だ
ドアが開く
彼だった 息が乱れておりその上この場を見て彼は血相を変えた
『何をしようとしたのですか?』
予測もしない王子の登場に、私も彼女も驚きを隠せなかった
彼女は私と距離を取る、だが見られてしまった以上
誤魔化すことは不可能だ
『王子…!違うのです、これは…!』
『貴女には断ったはずです
私は貴女と生涯共にしようとも思わない
そう言いましたよね?』
優しく言ってはいるが、彼は内心怒っている
それに彼女は顔面蒼白で、体も小刻みに震えていた
『け、けれど…私は…貴方を諦めきれなくて
侍女の噂で聞いたのです
貴方が醜い姫に、求婚したのだと』
涙をこぼれないように、歯を食いしばって訴えるが
彼は彼女を許す気はないそうに追い打ちをかける
『それが、姫に今しようとしたことですか?
従わない相手に、体罰を食らわせて服従させる』
『違います、違うのです
手を出すつもりはなかった!
それは本当です、信じてください王子』
必死に謝罪するが、一部始終を見てしまった以上
彼女に対する印象は変わってしまった
『貴女はいつもそうですね
気に触ると手が出てしまう、だから貴女を
選ばなかった
ただそれだけです。
貴女を傷つけないような断り方をした
けど、はっきり言った方がよかったそうですね
姫に危害を加えようとした貴女に、情なんて
わきません
あの時に話した通りです
それで終わったはずですが…
違いますか?』
怖気付いたのか、彼女はその場に入れなくなり、部屋から出ていった
こんなはずではなかった、王子が来る予定ではなかったのに
幼馴染という立場で、彼を好きになるのは当然だった
誰よりも、彼を理解していた
だから、彼の伴侶となって支えていきたい気持ちで
勇気を振り絞って申し入れたのだ
けれど、彼は断った
勇気は打ち砕かれ、悔しさが残った
どうして!と問い詰めるが
『申し訳ないですが
将来の伴侶は貴女ではありません』
拒否されても、私は諦めきれなかった
この小さい頃から胸に秘めた恋心は、諦められない
彼に嫌われてもいい、そんな一心だった
侍女たちの噂で、彼は隣国の姫に求婚したと話を小耳に挟んだ
醜い姫、心も体も汚れて覆われている
他にも様々な言われようで、姫自身も国もそれを否定せず、噂が膨れ上がっている
真祖を確かめるため、というのはただの口実
美姫と謳われている自分と、醜い姫君
どちらか彼に相応しいのか、火を見るより明らかだ
けれど、想像以上の醜さで、口角が上がるのが抑えきれなかった。
私はこの姫に、勝ったのだ
神は私にこの容姿をくれた、味方してくれたのだ
現実はそうはいかなかった
結果として、王子に見放された。軽蔑されたことだろう
だが、あの醜い姫を王子の隣にいさせることは
あってはならない
彼女はある人に、嘘の情報を流しちらつかせ、行動させた
きっと、思い通りに行くはず
その行動を、神が見てることも知らず
彼女が立ち去った後、二人きりになった
彼と向き合う姿勢になり、少し緊張してしまう
あの告白以来だと
彼はゆっくりと近づき、ヴェール越しに頬に触れる
『どこも怪我していませんか?
大丈夫ですか?』
声に出したかった けれど彼の顔を見るだけで顔が火照り、頷くことしかできなかった
(何故?私はどうしてしまったのかしら?)
そんな私の様子には気づきもせず、彼はいつもの様に私に微笑む
そこで気づいた 私は彼のことが好きになってしまったのだと、
慕っている、ではなくて 愛していたのだと
もう答えは出てしまった
『手紙…送ったのですが届いてないですか?』
『申し訳ありません、きっと父です
貴女に干渉しないようにしたのでしょう』
『そうですか…でもよかったです』
『何故ですか?』
『何か巻き込まれていないかと心配で
けれど、無事に元気なお顔を見れたので』
それは紛れもない本心だった
手紙の返事がこない時、何よりも考えていたのは彼の安否だけであった
それを聞いた彼は不意を突かれた様に
言葉も出なかったようだ
『貴女は私を怒ってもいいのですよ?
先ほどの彼女についても…
何故そんな風に考えられるのですか』
幼馴染の彼女が、自分にそこまで好意を示していることも知らず、彼女を傷つけないような断り方をした
だが、それが返って刺激を与え、姫にも傷をつけてしまった
きっとひどい言葉で、姫の心も傷がついたことだろう
けれど、姫は怒らず微笑みを自分に向ける
『貴方のおかげですよ』
そして私は思いを告げた
『王子、私はあの告白からずっと
考えていました 貴方のことを
そして今、答えが出ました』
彼からも真剣な瞳で私を見つめる
緊迫した空気に包まれたが、構いはしなかった
『私はずっと貴方の言葉に救われてきて
貴方と過ごす時間はかけがえのないもの
でした
貴方のことを考える度に、胸が高鳴って
やっとわかりました その意味が
貴方を愛しています』
それは紛れもない、偽りのない言葉
彼は信じられない程に何度も私に聞き返す
『ほんとですか?本当に私のことを?』
恥ずかしくて小さく頷く
そして彼は私を抱きしめた
初めて抱きしめられ、どうしたらいいのかわからなかったが、気持ちがあったかくなった
『私も貴女を愛しています
隣にいるのは貴女しか考えられない
どんなことがあっても私が貴女を守ります
幸せにして見せます』
その言葉に、愛されてると嬉しくなった
けれどその幸せは束の間だったのかも知れない
私と彼が結ばれることに対して、誰も祝福も
認める人さえもいなかったのだから
娘に興味ない父が今更、と思いながらも
そこには父と、叔父がいた
叔父がいるのに驚きながらも、私はゆっくり席に着いた
叔父は私の方を品定めする様な瞳で見ていた
その視線が怖くて私は俯いてやり過ごした
『お前に縁談の話がきた 醜い姫を嫁に
という物好きの奴らからだ』
その物好きの中には、きっと身体目的の人も含まれているだろう
妻を所有物だと思う人も
『その縁談を、お受けになるべきですか?』
恐る恐る聞くも、父は表情を変えない
父の意図が見えず、困惑する
それとも思うことがなく、娘ではなく他人としてみているのか
『お前は、結婚したい相手はいないのか?』
答えるべきか迷った
けれど、彼の顔が急に目に浮かび、戸惑ったが私は頷く
『はい、慕っている方はいらっしゃいます』
『隣国の王子か?』
ゆっくり頷くと父は私に一つの紙を渡した
その紙には、彼とこれ以上関わらないで欲しい
とのこと
それを反した場合、姫という立場を剥奪してもらうと書かれていた
『お父様…これは?』
『これ以上、王子と関わるなとのことだ
王子は大事な時期の為、判断を狂わせる
行いをするなとのこと
反故にした場合、お前をこの国から追放
しなくてはいけなくなった』
突然の国からの指示に私は戸惑いつつも、言葉を選びながら申し入れる
『…一度彼と話をさせては頂けないですか?
約束したのです…お父様…』
それを遮る様に今まで黙っていた叔父が口を出した
『姫、これは国に関することですよ
私達は否と言う訳にはいかないのです
姫の行動一つだけで、国を揺るがしかねない
それをお分かりでのことですか?』
自分でもわかってる
けれどこれは彼の父の言い分だ
彼の口から聞きたい 真実を
『わかっています けれど私が彼に
何をしたと言うのです?
理由が明確ではない限り、納得できません
納得する理由でしたら、私は彼に近づきません』
それの言葉に叔父はそれ以上口を出せなくなり
父は険しい顔をしながらも提案をする
『ではこの件はお前に一任する
その結果、追放されたとしても私は
知らないからな』
『ええ、それでいいです
私は姫という立場に、未練というものはない
ですから
今、この場で剥奪されても受け入れる所存です』
その言葉は偽りはなかった、本心だ
私の発言に、驚くことなく
父は腰を上げ、叔父も続く様に退室した
その場には私一人になった
『やっぱりお父様にとって私はどうでも
いいことなのね』
わかっていたことなのに、少し期待してしまった
いざ父の言い分を耳にすると、やっぱり心が少し痛かっ
た
小さい頃から、父と向かい合うだけで怖気付いてしまう
怖いのだ
父よりも、王という威厳が強いからかもしれない
笑ったところも見たことないし、何が好きなのかもわからない
昔、子供ながらに贈り物をしようとした
自分で作った小さな花束を
世話係もお墨付きの、綺麗な花束
これを渡して、少しでも会話に繋がればいいと思ったから
届けようと父を探し、城内を歩き回った
どれくらい歩いたかわからないぐらい、城内は広くて
子供の足では限界を超えていた
足が疲れてしまい、立ち止まり花束に視線を落とすと花束が萎れてしまっていた
すぐ渡せると思っていたから、何も考えずに飛び出したのも悪かった
花は寿命が短いのだ
水に浸さないと、花は萎れて死んでしまう
もうこれは渡せない、そう思い自分の部屋へ帰ろうと
踵を返す。
来た道をとぼとぼと、歩いていると父とすれ違った
父は自分に興味ないようで、娘にすれ違っても話しかけてこなかった。
やっと見つけたのに、けど声をかける勇気はなくて
目に涙をためながら、早足で部屋へと帰った
その様子を気に留める人は、誰もいなかった
そこから私は父と話すことがさらに怖くなり
用がある以外は、極力近づかないことにした
お互いきっとそのほうがいい
けれど、心はずっと傷んでいる
もう修復が不可能なくらいに
そんなある日、我が城に来訪者が来たらしい
父には部屋から出てくるな、と言われた
いつもふらふら出歩いている訳ではないが、
父の言葉に従い、部屋で1日を過ごす
午後に差し掛かると、突然ノックの音が聞こえた
私の部屋をノックするのは限られた人だ
侍女か、衛兵 それと彼だけだった
不審に思いながらも、恐る恐る声をかける
『…どなたですか?』
『貴方と話がしたいの
開けてくださらない?』
女性の声だ 今日の来訪者の一人かも知れない
けれど、それなら父が呼びに来るはず
戸惑うが、再度声をかけるのでやむを得なく
顔を覆うヴェールをして、扉を開ける
そこにいたのは綺麗な女性だった
艶のある金色の髪、美貌を引き立つような美しい唇
容姿だけで分かるぐらいに美しかった
そんな女性が私に何の用だろうか
彼女を部屋に招き、侍女にお茶の手配を指示する
お茶が来るまで彼女はじっと私を見つめる
いたたまれなくて私は視線を下に向ける
お茶がくると彼女は話し始めた
『まず初めまして、私は隣国の王子の
幼馴染です 急な来訪なのに受け入れて
いただき感謝いたしますわ
貴方の噂は聞いていましてよ
醜い姫、と有名だとか』
それから彼女は私の心を抉るように
彼に対しての思い、そして私を嘲笑うように話し始めた
『私、彼を愛してるの だから縁談を申し
入れたのだけれど…断られてしまって
その理由が貴女と知ってどんな人かと
思ったけれど…
想像以上に酷い容姿ね』
今まで浴びてきた圧、言葉 鵜呑みしないように心を強く保つように、拳を握りしめる
『産まれないほうがよかったぐらい酷いわね
あら、ごめんなさい 言葉が過ぎたわ』
勝ち誇ったように、彼女は笑みを隠すように口元に手を添えた
だけど、彼女の赤い口紅がそれを引き立て
かえって目立っていた
『いえ、お気になさらず』
『優しいのね、ここまで言われても反論
しないなんて、おかしいわね貴女』
『反論しても変わらない、と分かっています
私の取り柄は心の強さだけですから』
彼女は小さく『おかしな人ね』と再度いい
話を戻す
『憶測でしかないですけれども、
彼は貴女を信頼し過ぎて、判断を誤って
いる
縁談という形ではありますが
国を揺るがしさかねないことです
国の為か、自分の為か…
答えは前者に決まっているのに
だから彼の為に、彼の前から
消えてちょうだい』
はっきり、『消えて』と言われ、口の中の渇きを誤魔化すように唾を飲み込んだ
『消えるとは、どういう事で?
死ね、と言うことでしょうか?』
声が震えていたのかもしれない、そのせいで顔も引き攣っているであろう
『この国から去る、それだけでいいです
貴女の父にも話をさせてもらいました
好きにしていい、とのことで
父にさえ、愛されていないのね』
やっぱりと想像通りだった
けれど私は彼に真実も聞いていないし、告白の返事もしていない
私は初めて反論をした
『無礼を承知でいいます
それは貴女の言い分ですよね?
私は彼の口から聞いた上で、その提案を
受けるか、否か判断したいのです』
反論されると思っていなかったのか、彼女は少し口籠もりながらも反論する
『けれど…!私は彼の為を思って!』
『彼のことを思っているなら、こんな提案
しないのではないでしょうか?
縁談を断られているのでしょう?
私なら潔く身を引きます
それは間違っていますか?』
私の問いに彼女は何も言えなくなり、唇を噛み締め、急に立ち上がり勢いよく、私の胸ぐらを掴む。
『貴女に何がわかると言うの?
醜くて、生きてることさえ価値のない姫が!
私の思いがわかるはずがないわ!』
彼女の悲痛な声が部屋に反響する
『その通りです、私に貴女の思いがわかるはず
ありません
そして私の思いも貴女に分かるはずがない』
その言葉が彼女の胸に、どう伝わったのかはわからない
けれど、悔しそうに、憎悪の瞳を私に向ける
そして彼女が私の頬を叩こうと、手を振りかざした時だ
ドアが開く
彼だった 息が乱れておりその上この場を見て彼は血相を変えた
『何をしようとしたのですか?』
予測もしない王子の登場に、私も彼女も驚きを隠せなかった
彼女は私と距離を取る、だが見られてしまった以上
誤魔化すことは不可能だ
『王子…!違うのです、これは…!』
『貴女には断ったはずです
私は貴女と生涯共にしようとも思わない
そう言いましたよね?』
優しく言ってはいるが、彼は内心怒っている
それに彼女は顔面蒼白で、体も小刻みに震えていた
『け、けれど…私は…貴方を諦めきれなくて
侍女の噂で聞いたのです
貴方が醜い姫に、求婚したのだと』
涙をこぼれないように、歯を食いしばって訴えるが
彼は彼女を許す気はないそうに追い打ちをかける
『それが、姫に今しようとしたことですか?
従わない相手に、体罰を食らわせて服従させる』
『違います、違うのです
手を出すつもりはなかった!
それは本当です、信じてください王子』
必死に謝罪するが、一部始終を見てしまった以上
彼女に対する印象は変わってしまった
『貴女はいつもそうですね
気に触ると手が出てしまう、だから貴女を
選ばなかった
ただそれだけです。
貴女を傷つけないような断り方をした
けど、はっきり言った方がよかったそうですね
姫に危害を加えようとした貴女に、情なんて
わきません
あの時に話した通りです
それで終わったはずですが…
違いますか?』
怖気付いたのか、彼女はその場に入れなくなり、部屋から出ていった
こんなはずではなかった、王子が来る予定ではなかったのに
幼馴染という立場で、彼を好きになるのは当然だった
誰よりも、彼を理解していた
だから、彼の伴侶となって支えていきたい気持ちで
勇気を振り絞って申し入れたのだ
けれど、彼は断った
勇気は打ち砕かれ、悔しさが残った
どうして!と問い詰めるが
『申し訳ないですが
将来の伴侶は貴女ではありません』
拒否されても、私は諦めきれなかった
この小さい頃から胸に秘めた恋心は、諦められない
彼に嫌われてもいい、そんな一心だった
侍女たちの噂で、彼は隣国の姫に求婚したと話を小耳に挟んだ
醜い姫、心も体も汚れて覆われている
他にも様々な言われようで、姫自身も国もそれを否定せず、噂が膨れ上がっている
真祖を確かめるため、というのはただの口実
美姫と謳われている自分と、醜い姫君
どちらか彼に相応しいのか、火を見るより明らかだ
けれど、想像以上の醜さで、口角が上がるのが抑えきれなかった。
私はこの姫に、勝ったのだ
神は私にこの容姿をくれた、味方してくれたのだ
現実はそうはいかなかった
結果として、王子に見放された。軽蔑されたことだろう
だが、あの醜い姫を王子の隣にいさせることは
あってはならない
彼女はある人に、嘘の情報を流しちらつかせ、行動させた
きっと、思い通りに行くはず
その行動を、神が見てることも知らず
彼女が立ち去った後、二人きりになった
彼と向き合う姿勢になり、少し緊張してしまう
あの告白以来だと
彼はゆっくりと近づき、ヴェール越しに頬に触れる
『どこも怪我していませんか?
大丈夫ですか?』
声に出したかった けれど彼の顔を見るだけで顔が火照り、頷くことしかできなかった
(何故?私はどうしてしまったのかしら?)
そんな私の様子には気づきもせず、彼はいつもの様に私に微笑む
そこで気づいた 私は彼のことが好きになってしまったのだと、
慕っている、ではなくて 愛していたのだと
もう答えは出てしまった
『手紙…送ったのですが届いてないですか?』
『申し訳ありません、きっと父です
貴女に干渉しないようにしたのでしょう』
『そうですか…でもよかったです』
『何故ですか?』
『何か巻き込まれていないかと心配で
けれど、無事に元気なお顔を見れたので』
それは紛れもない本心だった
手紙の返事がこない時、何よりも考えていたのは彼の安否だけであった
それを聞いた彼は不意を突かれた様に
言葉も出なかったようだ
『貴女は私を怒ってもいいのですよ?
先ほどの彼女についても…
何故そんな風に考えられるのですか』
幼馴染の彼女が、自分にそこまで好意を示していることも知らず、彼女を傷つけないような断り方をした
だが、それが返って刺激を与え、姫にも傷をつけてしまった
きっとひどい言葉で、姫の心も傷がついたことだろう
けれど、姫は怒らず微笑みを自分に向ける
『貴方のおかげですよ』
そして私は思いを告げた
『王子、私はあの告白からずっと
考えていました 貴方のことを
そして今、答えが出ました』
彼からも真剣な瞳で私を見つめる
緊迫した空気に包まれたが、構いはしなかった
『私はずっと貴方の言葉に救われてきて
貴方と過ごす時間はかけがえのないもの
でした
貴方のことを考える度に、胸が高鳴って
やっとわかりました その意味が
貴方を愛しています』
それは紛れもない、偽りのない言葉
彼は信じられない程に何度も私に聞き返す
『ほんとですか?本当に私のことを?』
恥ずかしくて小さく頷く
そして彼は私を抱きしめた
初めて抱きしめられ、どうしたらいいのかわからなかったが、気持ちがあったかくなった
『私も貴女を愛しています
隣にいるのは貴女しか考えられない
どんなことがあっても私が貴女を守ります
幸せにして見せます』
その言葉に、愛されてると嬉しくなった
けれどその幸せは束の間だったのかも知れない
私と彼が結ばれることに対して、誰も祝福も
認める人さえもいなかったのだから