そんなある日、彼が訪ねてきた
急なことに驚きながらも、会えることが嬉しかった

その日の空はどんよりしてて今にも雨が降り出しそうだ
まるで、今の自分の不安定な心を表しているようだ

ノックの音がした 彼が来たのだろう
顔を覆うヴェールを被り、ドアを開ける

『姫、お久しぶりです
 急な来訪なこと、申し訳ありません』

『いいのよ、とても重要な話なのでしょう?
 さぁ、どうぞ』

そんな彼の表情はいつもの柔らかい表情もありつつも
少しぎこちなかった

申し訳なさそうに、私に礼をする
顔を上げた瞬間、彼の黒髪の髪が揺れた
出会った時よりも背は伸び、私が少し見上げるくらいには背は高くなった

急いでたのか、襟元が乱れ鎖骨がチラリと見えており
咄嗟に視線を逸らしてしまった
無意識だと思うことにした

席につき、お茶を飲み一呼吸をつき
彼が語り出す

『近々私に縁談の話がきまして
 正直なところ悩んでいます』

『何故?』

『国の為の縁談が主だからです
 私は気が進まなくて…』

思い詰めた彼の表情に驚きを隠せなかった
いつも優しく微笑む彼しかみたことがなかったからかも知れない

『縁談とはいえ、自分の伴侶を選ぶことに
 なるのですよね 慎重にもなりますよ
 貴方は魅力的ですし、他の女性達も
 ほっとかないでしょう』

心の中では、私もそのうちの一人かも知れないと思いつつ、彼を見ると少し赤面していた
けれど、すぐに表情を戻し私の手を取る

『姫、私は将来の伴侶は貴女がいいのです
 国の為ではなく、自分の為に
 貴女と生涯共にしたいです
 受け入れてくださいますか?』

突然の告白に驚きを隠せなかった
彼は冗談を言う性格でもなく、真面目な人だ
そんな彼が私を選んだのだ

どう返事するべきか、迷いもあった
曖昧な答えでは彼を傷つけてしまう
けれど彼はそんな私の考えも見透かした様に
優しく微笑んだ

その紫の瞳が、私を放さないと言うように
彼の瞳は、ミステリアスで魅力的な視線で私を動揺させる
それを分かった上で、彼は私を試しているのだろうか


『今すぐにとは言いません
 けれど前向きに考えてください
 姫の正直な気持ちを私は知りたいのです』

手の甲にキスを落とし、『では返事を待ってます』と言い彼は退室した
彼の退室と共にヴェールを取り、鏡を見てみると顔が赤く熱っていた

『…何故こんなにも心臓が高鳴るのかしら
 わからないわ…』

この感情を彼女はまだ知らない