この国の姫は醜かった
産まれた時から醜く、父は愛してくれなかった
母は、私を産んで程なくして亡くなったと
愛していたのかもわからなかった

愛を注ぐのは、いつも世話係だけ
けれど、姫が成人を迎える頃には、世話係は解雇され一人ぼっちになった

父の指示だった。
成人したら立派な大人、いつまでも世話係に甘えるものではない、と
反論もできず、私は頷くしかなかった。

本当は悲しかった、寂しかった。
世話係がいなくなった部屋は、とても静かで牢獄のよう

世話係だっていい人達ばかりではない
私の容姿を見て、蔑んだ目で見て来る人もいて、数えきれないくらい人が変わった

理由は私の容姿
醜いから、世話をしたくない
化け物を世話したら、伝染してしまう

世話係がいつも持ってくる食事は、硬いパンとスープのみ
味は薄く、パンも硬くて食べるのも億劫だ
幼少期は残すと、『民が苦労して働いて、姫に提供したものを残すと言うのですか?貴女は王族のひとりでしょう?』

その言葉に、私なんかが残してはいけないと
涙目になりながら食した
食べれないものもいるから、私はまだ幸せだ
そう思いながら無理矢理、胃に送り込んだ

世話係のイジメは、食事の時だけだった
耐えきれないほどではなかった

けど、悲しくて私は思ってしまった
こんな醜い体じゃなかったら、と

姿見を見て思う
窪んだ両目、痩せ細った体
唇はひび割れて、みるに耐えない
艶のない腰までのびた髪

皆が私をこう呼ぶ
人の皮を被った化け物だと

望んでこうなった訳ではないのにと
悲しみに浸ってしまうのだった

そんなある日、語りかける声がした

『その身に受けた呪いを取り除きたければ
 姫という立場を捨てるがよい』

周りを見渡すが、人姿すら見当たらない
その声は何回も繰り返す、まるで呪いの様に

その言葉を聞いて、思い描くのは彼だった。
姫には慕っている人がいた
その人は隣国の王子だ
父の商談であった仲だが、初対面の頃から彼は私の醜い姿を見ても何も言わず、微笑みかける

私が泣いていると慰めてくれて、決して汚れた言葉を口にしない
私を罵ったりしない

いつもこう言ってくれるのだ
『姫は醜くありません、とても美しいです
 もっと自信を持ってください
 姫が笑ってくれるのなら何度でも
 言いましょう』

それが嬉しかった
だから姫という立場を捨ててしまったら
彼に会えなくなってしまう
それが一番悲しかった

彼の存在は姫にとって、唯一心をさらけ出せた
友人のような存在
言葉にするのが難しくて、それ以上はわからない

人と関わることを恐れ、相手も姫を恐れたから
人との接し方もわからなく育ってきた

人の心理を学ぼうとした、なぜ私を恐れるのか
様々書物を読んだ、けれど導かれる答えは一つだけ
『得体の知れないものに、誰もが近づこうとは思わな
 いから』

そこからは、他人と接することもやめて部屋に篭った
いつも牢獄とも呼べる、無駄に狭くて広い部屋で過ごした
生きてることはわかるくらいに、使用人は度々私の様子を伺ってくる

善意ではなく、父に命令されたからだろう
確認するとすぐ出ていく、未知なものを触れたように足早に

気分がすぐれる散歩もままならない毎日
窓から外の光景は見えるが、目が合うと皆、逃げるようにして去っていく
誰もが、私の存在を否定する


姫という立場に未練はない
捨てたいとも思うほどに
もうどうすればいいのか、わからなかった