この国の姫は醜かった
産まれた時から醜く、両親は愛してくれなかった

愛を注ぐのは、いつも世話係だけ
けれど、姫が成人を迎える頃には、世話係は解雇され一人ぼっちになった

父の指示だった。
成人したら立派な大人、いつまでも世話係に甘えるものではない、と
反論もできず、私は頷くしかなかった。

本当は悲しかった、寂しかった。
世話係がいなくなった部屋は、とても静かで牢獄のよう

世話係だっていい人達ばかりではない
私の容姿を見て、蔑んだ目で見て来る人もいて、数えきれないくらい人が変わった

理由は私の容姿
醜いから、世話をしたくない
化け物を世話したら、伝染してしまう

それが悲しくて私は思ってしまった
こんな醜い体じゃなかったら、と

姿見を見て思う
窪んだ両目、痩せ細った体
艶のない腰までのびた髪

皆が私をこう呼ぶ
人の皮を被った化け物だと

望んでこうなった訳ではないのにと
悲しみに浸ってしまうのだった

そんなある日、語りかける声がした

『その身に受けた呪いを取り除きたければ
 姫という立場を捨てるがよい』

周りを見渡すが、人姿すら見当たらない
その声は何回も繰り返す
まるで呪いの様に

姫には慕っている人がいた
その人は隣国の王子だ
父の商談であった仲だが、初対面の頃から彼は私の醜い姿を見ても何も言わず、微笑みかける

私が泣いていると慰めてくれて、決して汚れた言葉を口にしない
私を罵ったりしない

いつもこう言ってくれるのだ
『姫は醜くありません、とても美しいです
 もっと自信を持ってください
 姫が笑ってくれるのなら何度でも
 言いましょう』

それが嬉しかった
だから姫という立場を捨ててしまったら
彼に会えなくなってしまう
それが一番悲しかった

姫という立場に未練はない
捨てたいとも思うほどに
もうどうすればいいのか、わからなかった