うちの高校は1年と2年から文化祭実行委員が2人ずつ選出されて、1組から6組、合計24人が生徒会と一緒に雑務や広報などをすることになっていた。
一般公開する文化祭のため、これだけの人員が委員会に駆り出される訳だ。

昨年の文化祭に参加していない俺は、その概要を知り、逃げたくなった。まさかそんなに力を入れていたなんて。まさか夏休みに学校に来ないといけないなんて。
やっぱり、サボろうかななんて思ったけど、迷惑がまわりにかかる。ああ、あの日、学校休んでたらよかった。
考えればきりがない後悔をずっと抱えながら、方杖をつく。イヤホンをしているから、前みたいに女子も話しかけてこなかった。

「若王子くん、次。くじ引きしにいかんと」
「あ、そうだね」
田島が臆することなく俺に声をかける。俺はイヤホンを外した。
音なんかなんにも流れてないのに、イヤホンを入れているのは、ノイズキャンセリングのためだった。

自分を褒める言葉、好意的な言葉は甲高い声やヒソヒソ声で、妬み嫉みは低い声で聞こえるたびに反応するのが嫌になった。
イヤホンをしながら英語の参考書を開いていれば話しかける人は少なくなった。


あの委員決めから俺たちは一声も話すことなく、
仲良くなることもなく、ただ淡々と日常を繰り返した。
席の周りに女子が集まることは少しずつ少なくなって、
田島やほかの男子が自分の席について自習やスマホをいじる様になった。

静かになった教室が寂しいように感じて、いかに周りが賑やかだったか、周りに迷惑をかけていたのかが分かった。
田島くんは、俺に話しかけるなんてことはなく、自分の友達と話をしていた。

俺に背を向けて笑うたびに、肩が上下に揺れた。
背中のワイシャツのシワのラインも一緒に揺れた。
俺は頬杖つきながらそれを見ていた。耳に入れたイヤホンからは何にも音はしなくて、田島くんの笑い声だけが聞こえた。カラッと空気を吹き飛ばす、突風みたいな勢いの笑い声。不思議な、嫌な音がしない笑いだった。