隣から大きな声が入ってきそうになって耳を塞ぐ。うるさい。そうはいえなかった。なぜならその声の主は田島くんだったから。
目をきらきらさせながら手を上げて、なんならぶんぶん振りながらアピールする田島くんを、異形をみるような目で見てしまう。

「田島。もうちょっと元気抑えような。
じゃあもう2人に決めるぞ。後は適当に予算内に収めて、喧嘩やトラブル起こさずやってくれよ〜」

わあ、とパチパチとまばらな拍手が起こる。

拍手がまばらなのはきっと俺と一緒に文化祭実行委員やりたかった女子たちの策略がこの田島の勢いのせいで頓挫したこと、
田島を期待の星として見つめる男子たちの拍手、
といった失望と希望が入り混じっているからだろう。

「っしゃ!よろしくな!若王子くん」

勢いよく隣から差し出された手のひら。
俺より大きくて、節くれていた。皮が厚くて、爪がささくれ立っていていかにも手入れ行き届いてない手だった。

「よろしく。田島くん」

俺は、それを握ることなく、笑って返した。
きっと、みんなが言ってくれる「人形みたいな、完璧な笑顔」だっただろう。

いいなぁ、何も考えなしで動ける人は。

でも、いい。

たった一ヶ月。その間の付き合いなのだ。

その間だけ、うまくやれれば無難に事は進むだろう。

彼は不思議そうに首を傾げながら、
手を引っ込めていった。