「ぜーったい嘘っすよ!」
ボックス席の前に座る木本くんは、フライドポテトを頬張る。ケチャップが口角に付いていた。

「お前なぁ…」

「それが、嘘じゃないんだよ。木本くん」

高校3年生になった木本くんが、俺に連絡をくれたのは、
秋の、少し肌寒くて枯れ葉が道に敷き詰められるころだった。

木本くんは、俺が広告モデルに起用されたファッション雑誌の一枚(本当に隅の隅に掲載されたやつ)をたまたま見かけて、一輝を通して連絡をくれたのだ。

そして今日、一輝といっしょにこっちに戻ってきて、3人で会おうという話になった。

高校生のころ、よく溜まっていたチェーン店の喫茶店。その角のボックス席に
俺と一輝二人並び、対面に木本くんという構図で座った。

あの頃のあどけなさは薄く、よく焼けた肌と筋肉質の身体を見た時、別人になったと思ったけど喋り始めるとあの時の愛嬌が残っていて安心した。

「お二人がお付き合いされてるなんて!そんな!夢みたいな!」


「へ、そっち?」
俺は食べようとしていたフライドポテトを、落とした。

口元を手で隠して嗚咽のような声をあげながら彼は、泣き真似をした。

「俺が、俺が大好きなお二人が、お互いを大好きで、お付き合いされてるなんて…。そんな、都合いい夢、嘘に決まってる…うっ、うっ」

「木本くんって、ちょっと変わってるね…」
小声で一輝に耳打ちすると、

「おもしれー男やろ。俺が大切に育てたんや」
「いや、優しいいい奴、チームの中心になって欲しいとは聞いてたけど」

「こんな反応してくれるんは、優しいいい奴やろが」

耳打ちで返してくる。

あのときは可愛い後輩だと思っていた。(もちろん今も)

こう、付き合っているという報告に対して、自分たちよりも強い熱量で反応されると困る。

木本くんは、後から頼んだチョコバナナサンデーをパクパク食べて、おかわりにいちごサンデーを食べていた。
わんぱくさはそのままで、なぜか安心する。


「差し支えない範囲で教えてくれたら助かるんすけどね」

ぐび、と木本くんはお冷を飲み干してから真剣な顔で俺たちを見る。

「どっちが先に好きになったんすか?」
ズコ、と力が抜けそうな質問だった。
でも、まあ、それは俺も知りたいことだった。

一輝のほうがずっと先に俺にアピールしてたもんな、という事実を踏まえて、

「それは、…コイツが先に好きになったよ」

お互いがハモるようにして指を指す。

「は?それはないわ。絶対に環が先やで」

「いやいや、小学生のときカウントしたら一輝じゃない?」

「うわあ、本当にあるんだこんな反応」


テンションが上がっていく木本くんを見るたび、冷静さを取り戻していく。
なんか、女子の恋バナこんな感じだったな。気恥ずかしくなって話を変えた。

「木本くんは最近調子どう?」

「俺のことはどうでもいいんすよ。日本代表のU-20に選ばれたくらいのことっす」
サラリと、手を振りながらすごいことを言う木本くんに、

次は飲んでいたブラックコーヒーを吹き出しそうになる。

「いやお前まじサッカーすごいな。気を抜くなよ」

「お互い様っす!一輝さんも、環さんのこと、捕まえてないと遠くに行っちゃうっすよ。今は駆け出しのモデルだからって油断してるといつかニューヨークとか行っちゃうっすよ!」

「おぉん。俺より熱い熱量で俺等のことを語るな」

あの、策士で、相手の反応をみて出方を変える一輝が押し負けている姿を見て、木本くんが只者ではないんだろうなと知る。