「お前がもう、明日から来ないのは分かった」

「…うん」

「バカ呼ばわりしたのは謝る。事実だけど」

「最後の一文は訂正しろー」

「正直に言うと、ちょっと寂しい」

「“ちょっと”かい」

「夏休み終わった後から素っ気ないし、じゃんけんしてくんなかったし」

「いや、引っ越しの準備とか色々あったんやって。てかお前そんなにじゃんけん好きなの?」

「じゃんけん好きなのはお前だよ!」

「えぇ!?」

笑いながらちゃちゃを入れる田島くんは、しんみりしすぎないように空気を保とうとしてくれている。田島がすごく優しい人間だからできるんだと分かる。

「俺に、遠慮なく構ってくる奴なんかいなかったから」

「蓋を開けたら、まあまあ反応おもろいし、男友達おりそうな奴やったから、びっくりしたけど」

「だから、本当は学校辞めないで、って言いたい」

「…ごめん」

「夏休み前みたいに関わらない生活が始まるだけ。教室に田島くんがいないだけ。でも、多分もう同じには戻れないよ」

「まあ、色々黙っててごめん。俺やって、お前と一緒に夏休み登校したり、ジュースじゃんけんがもう出来へんのが辛いから言わんかった」


「どっちにしろ、もう明日からは夏休み前の世界に戻るんだ」

俺は立ち上がって、田島に手を差し伸べた。

田島くんと違ってまだ白い俺の手。
でも、この一ヶ月。
途中から日焼け止めを塗っても塗っても汗で流れていって、焼けていく肌をただ見ていた。
日傘を差すのも辞めた。

少しだけ黄色と茶色に染まった指先から上腕の途中まで、
サッカーをしていた時よりも薄い日焼け。

田島くんと、おんなじ太陽を浴びて、おんなじサッカーコートで一緒に、走り抜けていた。

ずっと胸の中で、守り続けた言葉は田島くんのだった。

どうして顔を見ても思い出せなかったんだろう。