椅子からたち上がって俺を見下ろす。

178cm
俺と同じ身長なのに、ずっと大きく見えるのは今まで体を作ってきたからだろう。
俺もやった事あった。
『王子様』『お人形』の俺にはもう必要がなくて、

今は萎んでしまったけど。


「今は、軽く走ったり歩いたりなんならチャリも立ち漕ぎできる。でも失った時間分を取り戻してレギュラーにまで戻るにはもう無理やねん。3年は短すぎるわ」

「…だから退学するの?」

「お前に焚き付けられてここまでサッカーやってきたのに、再会したらなんかよくわからんヘラヘラした奴になってたから。最後にお前をまた焚き付けて、青春っぽいことしたかった。ずっとサッカーばっかで学校行事ほとんどしたことないねん。

ぜーんぶまるっとクラスの皆に叶えてもらったし。俺に必死に食らいついてくるお前もまた見れたし。もうええねん。地元帰って、公立に編入する。


ていうか、偏差値足らへんねん。サッカーばっかしやったから勉強してなかったの。若王子くん、頭もええんはズルいわ」

本当に、もういいんだ。
その顔はやりきったと言わんばかりに達成感に満ち溢れていて、

腹が立つ。

何で悔しがらないんだ。何で寂しがらないんだ。

何で俺ばっかり、何も知らされないまま事実だけを受け取らないといけないんだ。

今までの俺なら流されたまま、そのままスルーしていくだろう。

なんなら、
誰か一人のためだけにこんなに走って、叫んで、ボロボロになってない。こんな必死な姿、王子様から程遠い。
でも、これも本当の俺の姿。
いつか捨ててきた俺。


田島くんに勝てないと分からされて、
サッカーを辞めたあの日に置いてきた感情が、

田島くんを失いたくないという今、蘇ってくる。

俺は、ずっとこいつに振り回されていたんだ。これからも振り回されたい。