「俺、スポーツ推薦でこの学校来てたん。
1年はスポーツ科やったから、お前とクラスも被らんかった」

田島は、俺に目を合わせず遠く、スポーツ科がある校舎を見つめた。

「でも、1年の夏に、アキレス腱切れた。あと足の指も疲労骨折しかけてた。やからレギュラーどころか選手にもなられへんようになった」

同じ敷地内で生活していても校舎が違えば全く別世界だ。

記憶を探ってもそんな大怪我していた生徒とすれ違っていない。
きっと田島だと認識していれば、まだ記憶に残った。
でも当時の俺はただなんとなく、で生きていたから。

「ホンマは部活辞めたら学校も辞めなあかんねん。
学費免除でここにきてるから。それが決まりやねん。

でも学校辞めたら俺の中学へ届く推薦の枠が潰れてまう。先生も監督も優しかったから、俺の気持ちも考えて、マネージャーとして籍を残すとか、スポーツ科から普通科へ転科するとか学校に残れる方法考えてくれた」

田島は大きいリュックからミネラルウォーターのペットボトルを取り出して俺に渡した。

「飲みや。俺がこんだけ気を使えるんはマネージャーしてたからやで」
と取ってつけたような冗談を言った。いつもなら
『ちょっとうざ』と流すけど、今の俺にはそんな余力なんかなかった。

素直に受け取って、蓋を開けた。
汗が秋風に冷やされて気持ちいい。

「マネージャー業、嫌いじゃないねん。今までマネージャーこんな大変なことやってたんか、ってめちゃめちゃ尊敬した。

でも、マネージャーしながら自分ができんサッカーを見続けるんもなんか、イライラするというか虚しくなるというか。サッカー、嫌いになりたくなくて。やから辞めようって思った」

俺と同じ理由でサッカーから身を引こうとしていた事実を知ってしまった。

はじめから、田島くんのこと、ちゃんと知ってたら、また見る目が変わったのかな。