「ちょっとイキってみたかっただけやって!許せや!!」
困ったように笑う。
はじめは、彼は自分の思ったことをすぐに言う、配慮がちょっと足りない奴だと思っていた。

でも、そんなことなくて、自分に素直に向き合っていて、
それをちゃんと言葉や態度に示せる。

眩しいくらい真っ直ぐで、その癖、言いたくない事は最後まで口を割らないまま。

眩しいくらいかっこいい奴だった。


「ぜってー許さない!!俺よりカッコつけんな!!」

「うわ、顔が良いからってまた調子乗って」

「とにかく、そこ動くなよ!俺がそっち行くから!!」

「お前が来るんかよ」

俺はまた、走り出した。



3階から1階まで、3段飛ばしで転がるように降りていく。それでも距離が遠く感じて、
「帰るな、もうどこにも行くな」と何度も祈り続けた。

校舎から閉会式のため、体育館に全生徒集まるようにと放送が響く。体育館へぞろぞろ移動する生徒の波と反対方向に走り続けた。

ようやく降りた中庭では
田島が石でできた椅子に腰掛けて手持ち無沙汰な様子でスマホを見ていた。
周りには今まで降り積もった落ち葉たちがコンクリートの上を茶色く染め上げていた。


「おいっすー、お疲れ様」

そして
またいつもの調子で俺に手を振った。

「お疲れ様…じゃなくて。一体どういうことだよ。明日から学校来ないって」

俺はさすがに暑くなってきて、ドレスを脱ぎ捨てた。
田島が貸してくれたハーフパンツと黒い半袖シャツだけになる。

メイクもドロドロだし、ヘアスプレーも浮いてきたから、
田島に
「汗拭きシート、くれ」と手を出すと、
何も言わずに渡してくれた。乱暴にゴシゴシと拭き取るたびに白いシートは黒とかベージュとか茶色とかキラキラとかいろんな色がグラデーションのように広がっていく。


「お前、メイク落としそんなんでいいんか?」

「いいわけないよ。でもそんなことよりお前のことを知りたいんだわ」

田島は、本質からは逃れられないと観念したのか、
ため息を付いた。