また、休憩しに、控え室に戻っても、田島くんはそこにはいなくて、
まだ監督と話をしているのかなんてちょっと呑気に考えそうになる。

いやまて、

でも、担任とは話をしてなさそうだし、
監督だって、文化祭の昼間を狙ってわざわざ話をするか?

なんで行事の忙しいタイミングで話かけにいくのか?

逆に、そこじゃないとできない話だから?

なぜか、頭の中で不安や、嫌な予想がふつふつ湧き出す。
あのとき、宇宙にまた放り出されそうな、ふわふわと、広い太平洋を漂うような感覚がした。

何いってんだ。漂うなんて、ずっと慣れてきただろ。
たまたま田島くんが俺を引き止めてただけで、その枷が外れただけ。何を不安がるんだよ。

そう言い聞かせても
『最後』
『もう帰った?』

担任の不用意なワードが頭で繰り返す。

文化祭途中で生徒が帰るなんて普通は止めるんじゃないか?
いや、あの適当な担任ならありえるのかな?

俺はドレスを着たまま、職員室にまで来ていた。

ドアを開けるか否か、立ちすくんでしまう。

ここで田島の事を聞いて、どうしたいんだ。

そもそも生徒個人の話を教える先生はいかがなものか。


「うわ、ドアの前に立つな!びっくりする!」

そうこうしているうちに、ドアが空いて、また担任が顔を出した。

「先生、田島くんって、もしかして…

明日から、学校来なかったり、します?」


先生の顔があからさまに曇った

ほぼ答えだった。


「いや、お前にはてっきり話してるんだとばかり思ってたよ。アイツ明日で退学。理由は本人に聞いてみ。ばかだよな。文化祭したら退学って。初めてだわ、そんな生徒」

小声で、耳元によせて発せられる単語は、かなり響いた。



「後、お前についてた不審者?一応警備員に押さえてもらったから」

先生のその言葉すら、今の俺の安心材料にはなり得なかった。