「ごめんごめん。俺の娘がさ、嫁と文化祭来てて。お姫様と写真撮りたいって」

まさか、俺と写真撮りたいと言っているのが担任の娘だと知らず、拍子抜けする。

「可愛いー!ミオナもプリンセスになるー!」

4歳くらいなるとお姫様に憧れるとは噂で聞いていた。
ミオナちゃんも、服も、靴も、下げてる水筒みんなプリンセスのイラストが描かれていて、
好きなことにとことん、とはまさにこのことなんだと思う。

「はじめまして。たまきです」

目線を合わせるようにしゃがみ込んでも、彼女は俺が男だとは気がついていないようでニコニコして手を振ってくれた。

顔が良くてよかった…。メイクをしていくたびに、クラスの女子達が「可愛い!きれい…」というどよめきを起こし、次第に「私より綺麗になるんだ…」と心がしぼんでいくのを感じて、逃げ出したくなった。
この少女の笑顔でメイクをしてくれた彼女たちな手腕が報われてくれるならそれでいい。

このときばかりは、女子が俺のことを本当のマネキンかのごとく「可愛い!きれい!似合う!」を連呼した。
その言葉はキラキラと光っていて、言葉に偽りがないと信じれた。

感情が乗った単語は、スッと耳に流れてくる。俺が今まで言っていた言葉たちに、気持ちは乗っていたのだろうか。
乗っていなかったとしても、俺だから信じてくれていたんだろうか。それとも、俺と同じで、空気を読んで信じるふりをしてくれていたんだろうか。

今まで、空気を読んでほしい言葉をあげていた。
ずっと、自分の言葉じゃない気がした。

いつか、綺麗だけじゃない、自分の言葉を、素直に言いたい。田島くん以外にも渡したい。


担任のスマホは連写モードでおびただしい数の娘(と俺)を撮影していた。


「あれ、田島もう帰った感じ?」

担任はキョロキョロあたりを見渡した。

「いや、ていうか、担任とサッカー部の監督に用事があるって言って職員室に行ってます」


俺も言いながら、じゃあ担任はなんでここにいるんだ、と疑問に思う。

「最後だから、みんなで写真撮ろうぜって言ったんだけどな〜。まあしゃあねぇか」

ガシガシ、頭をかいた担任はミオナちゃんを抱えあげる。

ミオナちゃんは俺を相当気に入ってくれたみたいで担任の上で暴れて抵抗していた。

グーパンチを喰らいながら笑う担任はただの親ばかだった。
「じゃあ、俺も職員室戻るわ。ミオナ、みんなにバイバイして」

「ごきげんよう」

「おー、すごい上品。ママのとこいこうな」