「いや、若王子くん意外と重い!」
「嘘でも軽いと言ってよ。あと、
びっくりしたけどありがとう」

教室まで大量の客引きに成功し、クラスの会計係の顔が、ニンマリとした。

「なあに。ええってことよ。

ごめん、先に休憩入っていい?監督に呼ばれてる。あ、先生にもさっきの件言うな」

教室の中ではカンガルーのきぐるみやチャイナドレスなど、各々が衣装を着て、ベーグルやインスタントコーヒーとか簡単な軽食を提供していた。

俺たちと写真を撮る人はその注文をした人たちに限定してくれていたみたいで、半分くらいの人数が写真を撮る前に姿を消した。

金を払うまでではないレベルの女装と言われたみたいで虚しくなる。

数組の女子、田島くんの友達と写真を撮ったら、割と空き時間ができて、上の発言に戻る。


「いいよ。暑いでしょ」

優しいクラスメイトの配慮で俺たちは3階にある控え室へ戻った。

田島くんが荷物をおいていた机に腰掛けた。
「この格好で職員室、入ったらあかんかな」

「うーん。やめといたら?」

一応、制服に着替えた田島くん。ヘアセットはそのままで
いつもの無造作ヘア(といえばかっこいいけど、実際は洗ってそのまま、たまに寝癖がついてる)よりもずっとカッコいい。
ゆるくコテで巻かれて、細いウェーブがたくさんついているその髪はトイプードルみたいだった

「普段から、その髪型にしたら?」

「え?あんまやり方わからんねん。これ。やっぱ俺、こっちの髪型のほうがかっこいい?」

田島くんが、俺に振り向く。

俺がスカートをパサパサ扇いで中に風を送っていた最中で、
田島くんが反射的に顔を背けた。

「ちょ、びっくりするわ。もうちょいお淑やかにしてくれへん?パンツ見えたらどうする…あ、俺が貸してるやつか」

「うん。パンツは見えないよ」

「いや、それでもスカートの中が見えるんはなんか抵抗あるわ」

「…変態」

「え!?これ俺が悪いやつなん?こんなん不可抗力やろ」


田島くんから借りた、ドレスの下に着てるシャツもズボンも汗で濡れていた。
スカートってこんなに暑くて動きにくいとは知らなかった。

バレエシューズもぺったんこすぎて逆に、歩きにくい。

田島くんが腕を貸してくれてなければ躓いていただろう。

「汗まみれになったから、洗って返すね。シャツとパンツ」

「わざわざパンツっていうな。ありがと。返すの、急がへんから」

田島くんがもみあげあたりをかいた。

「じゃあ、さっきの件と、監督に話してくる。もし誰か呼びに来たら、俺がおらん理由を言っといて」


「うん。分かった」


そして田島くんがいなくなった教室で、

「あの髪型でいたら、田島くん、もっとかっこいいよ」
と呟いた。


グッと、冷たい水で、その言葉ごと、なかったことにして飲み干した。

そのタイミングで、ガラリと教室のドアが開く。

「ごめん、若王子くん。写真撮りたい人いるの。休憩中だけど出れる?」

「あ、うん。すぐ行く」

慌てて呼びに来たクラスメイトの呼びかけにすぐ応じて、控え室を出た。