「あ、監督が、また昼頃でいいから職員室来いって言ってましたよ」
「まじ?なんかやらかしたんかな〜。伝言サンキュ」

木本くんは、さっと俺の横に並んでスマホを自分の斜め上にかかげた。

画面の中ではには俺らが眩しい太陽に顔をしかめていた
木本くんが画面をタップする。

「…っし。めちゃめちゃ可愛い王子様とお姫様と俺が撮れたんで帰りますわ」

「あ!それ絶対俺に送ってや!トリミングする!」

「可愛い後輩をトリミングすんな!じゃ、失礼します!頑張ってくださいね!」

木本くんはまた人混みに消えていった。

「木本くん。本当にいい子だね」
「そうよ。本当にいい奴。やから来年からはチームの中心になってほしいんよ」

ふふ、とまた、大人びた、さびしそうに笑う声がした気がした。

「あの!私等も写真、撮ってください!」

そう声をかけてきた生徒は右、左、斜めと四方八方からいて、クラスメイトが予想していた通りの客足を獲得できそうだった。

「ほな、写真タイム!一分な!撮ったら絶対その写真2年6組持っていって!」
田島くんが高らかに宣言して、俺をまた抱き寄せる。
ヒッと、悲鳴をあげてしまった。

凄まじい連写音が聞こえる。
非日常だからか、アイドルになった気持ちになる。
前だったら、絶対目立ちたくない絶対文化祭なんかいかないと固く誓っていたのに、田島くんのせいで今ここにいられる。
田島くんがいるから、こんな女装しても、抱きしめられながらも写真を撮ってもらえる。

全部、田島くんがいないとやってこなかった今日だった。

「あそこ、物陰にひとり、お前を見てる変なおっさんがおる」

また肩を引き寄せたと思えば、俺の耳元で話す。
吐息が耳に当たるたび、ゾワっとした。
その内容にも思い当たる節があった。
視線の先に、スーツを着た、あの時のお兄さんがいた。
文化祭の立て看板に寄りかかりながらスマホを耳に当てて、誰かと話しているようだった。
ちらり、俺を見た気がして、すぐに目線を落とす。
田島くんに、八つ当たりした原因を話したくなかった。自慢みたいになっても嫌だから言いたくなかった。
でも、今は、一人ではどうしようもない。

「多分、アイドルのスカウト。前も駅で絡まれた」

俺も小声で返す。

「まぁじ。ヤバ。若王子くんのイケメン具合は全国共通なんやな」

「まあ、うん」

「スカウトどうしたい?受けたい?撒きたい?」

「今は、撒きたい、かも」

「じゃあ、この後で先生いうとく。顔も写真に写したくない?」

「今のこの姿はちょっと、いや」

「じゃあ、ごめんな」

耳から離れた田島くんが俺の膝を後ろから膝カックンした。
態勢が崩れそうになる。

「うわぁ!?」

体がふわっと浮き上がる感覚が怖くて声をあげた。

田島くんにお姫様抱っこされてしまった。顔の距離が近くて、両手で顔を隠した。

「ナイス、それで行こう」
小声で田島くんが俺に言った。


「続きの写真撮りたい人は2年6組へ行ってってくださーい!暑さしのぎしましょー!」

はい、ダッシュダッシュ!と田島くんがコールをする。

その自由な誘導の仕方と動き出す田島くんに驚いて何も言えなかった。