文化祭当日

田島くんは普通に登校してきた。

「ごめんな。昨日急用できてん。ジュースじゃんけんをしに放課後だけでも来てもよかったんやけどな」

と隣の席につくと、早口で説明してくれた。

目尻の垂れたその顔から、嘘では無さそうと信じたくなって、俺は、

「…今日、いちごミルク奢れよ」

とだけ返した。

俺は、昨日1日、隣の席が空いていること、
割れるような笑い声、笑うたび揺れる白シャツがいないこの世界に違和感を感じていた。

今まで関わらなくともずっといた存在。

今となってはいないとおかしいと思う存在になっていた。

周りのクラスメイトはそうは思わないのからいつものように俺の周りには女の子が集い、
席を奪われた男の子は俺を恨めしそうに見つめる。

いつもあったルーティンを繰り返していた。

世界は意外と鈍感なのかもしれない。
みんな流動的にゆらゆらと生きていて、一つのエラーに気がとられるまでに時間がかかりすぎる。

鈍感だから俺の見た目しか気にしてくれないと思ってしまったのかもしれない。

どうして、今まで隣の席だったのに、
話をしてこなかったんだろう。

どうして、田島くんと過ごす夏休みだけが、
非日常だけが、
これからも続くだなんて少しでも信じてしまってたんだろう。