隣の席ついた田島はリュックからうちわを取り出して扇ぐ。
冷房がついているとはいえ、通学時は熱された鉄板のようなアスファルトの上を移動してきたのだ。
どれだけこの教室に冷房が完備されていたとしても体は火照るに決まっていた。

ただ、問題は左手でうちわを扇ぐため、右隣に座っている俺にまで風が来ることだった。

まあまあの力で扇ぐからさっきからセットしてきた前髪がそよそよと額から離れたり戻ったりを繰り返していた。

田島は短髪だからセットもいらないし、前髪が動くことすら気にしたこともないのだろう。
周りに対しての配慮が足りないのか、我道を行くガサツな人間なのか。

関わる予定はないタイプの人間だから、内心まで知る由もないだろうと、俺は思いながら、女子がくれたキャラ物のヘアピンで前髪を止めた。

うさぎのキャラのそれは俺に似ているのだという。
どこが?という質問を飲み込んで「ありがとう。大事に使うね」と返事をしてしまった。
それ以降、ちゃんと使っているアピールをするために制服のポケットに入れっぱなしにしていた。していてよかった。

「あっ、ごめん。若王子くん」

彼が俺の動きに気がついて手を止める。
つり上がった目が少しだけ下がる。

「いいよ。気にしないで。俺は、べつにいいから」
俺は、いつものように笑って、両手を振る。

「いや、『俺は、べつにいいから』って。全然良く思ってないやつが言うやつ。気をつけるわな」

彼がツルリ、言った言葉には少し棘があった。
俺の真似してなのか、両手を振り返してきた彼はすぐに目をそらして黒板を見つめた。