「2年6組〜、コスプレ喫茶〜!よろしくお願いします〜!」

俺と田島くんは、プラカードを掲げながら校舎内を練り歩いていた。

一般公開のこの文化祭は普段より人が多くて、目眩がしそうだった。

それだけじゃない。俺たちに向けられるカメラの量も凄まじかった。

「やばあ!若王子さんっすよね!かわいい!」

声の主、木本くんは俺を指差して遠くから人混み駆け寄ってきてくれた。

「おい、まず俺やろ!先に俺に気がつけよ!」
「一輝さん、こんちわっす!」

俺の手を握ってブンブンふる木本くんは適当に田島くんに頭を下げた。
田島くんのキャラクターだから
2人の関係性だから許されている振る舞いなんだ、とやっぱり、蚊帳の外のように感じられて、グローブをはめた手を意味もなく、開いたり閉じたりした。

俺の手の中には何も中にはない。汗が滲んでも、ナイロン製の安い布はあんまり吸い取ってはくれなかった。

金髪の安いカツラもさっきから、口の中に入りまくって気持ち悪い。
ペッペッと何度か毛を吐き出してみても、別の毛がまた入ってくるの繰り返しだった。

「てか、まじかわいいっすよね。一輝さん、彼女さん連れてるんかと思いました。いやー、文化祭来てよかったー」

「せやろ〜。たまきちゃんかわいいよな?あ、木本。また、自主練は絶対やれや?」

ぐい、と肩を引き寄せられる。
俺を見つめる目は、犬や猫に向ける、愛らしいものをみているような、とろりとした目だった。

何故か花火大会の時の田島くんの顔がフラッシュバックして、顔を背けた。

「…暑い」
としか言えなかった。熱中症なのか、動悸がしていた。

9月といえども、まだ夏が続いてる今、俺たちの格好は、ほぼサウナに入っているのと同じくらい蒸されていた。

12時頃に、休憩に入っていいといわれていて、
その時に一度全てを脱ぎ捨てるつもりだった。