「うわ!俺、バリカッコいいねんな!な!」

王子様の格好に着替えた田島くん。
足の細長さを活かして白いスキニーパンツ、黒のロングブーツを履いていた。
上はイギリスの近衛兵が着用していそうな赤色の服(ダブレット!)に青色のタスキ(サッシュ!)と着用していた。

(衣装の名前をちゃんと言えなくて、衣装係の女子に怒られてる田島くんがそこにいた。俺も知らなかった)

鏡を見てくるくる回って、よく話をしている男友達に笑われていた。
大きな口を開けて笑う田島くんは、いつもと様子が変わらなくて、俺はなぜかホッとしていた。

勝手に嫌われたとずっと頭の片隅で考えていたから。

そもそも、男からあまり好かれていない俺に、
男友達たくさんの田島くんが仲良くしたいと思ってくれたこと自体、あり得ない話だったのかもしれない。

なんて、妄想ばかりが膨らんでいた。

「次、若王子くんだよ。メイクと着替え」

「あ、これさ、意外と生地汗吸わないやつじゃない?あと、スカート部分、裏地がないかも」

「まじ?安物だから仕方ないよね…。若王子くん、なんでもいいから下に着れるシャツとハーフパンツ、ない?」

何故か俺のメイクと衣装については準備担当の子たちがかなり気合いが入っている。


田島くんや他の男子生徒には「ワックスつけてね」とワックスまるごと渡すのに、

俺は女子生徒と同じくらいのヘアメイクと衣装調整のスタッフがついていた。

「え、ないかも。ごめん」

急に準備物を言われても手元にはなくて、謝る。

「ううん、うちらが言わなかったのが悪いの。1ミリも若王子くん悪くない」

「あ、俺あるで」

田島くんが
あのリュックサックからちょっとだけシワの入った黒いTシャツとハーフパンツを出す。

「あ!貸して!田島!」
女子が手をあげると同時にその2枚が田島から投げられた。
放物線を描きながら教室の東の端から俺の席にまで飛ばされたそれを抱きとめた。

田島の匂いがした。
ほのかに石鹸と汗が少し混じった匂い。

「ありがとう、田島くん」


俺は、腹をくくって、男子トイレまで、ドレスと田島くんの服を持って行った。