まだ茹だるような暑さがアスファルトから感じられた。
昼間に照らされすぎた歩道。
その横を走り抜ける車からもぬるい風が発せられた。

暑い。歩くより満員電車に乗ったほうがマシだったかもしれない。
そんな後悔がうっすら頭によぎる。

田島くんを見ると、やっぱり暑いのか額に汗が滲んだ。
白いカッターシャツも背中が汗で濡れて、彩度が低くなった。

「暑いな。うちわで扇いでええ?」

俺を見て、折りたたみうちわをリュックサックポケットから取り出した。

「いいよ。でもなんで許可取り?」

「は?前に俺がうちわ使ったらちょっと嫌そうな反応したやんか。やから許可取ってから使ってんの!」

「ああ…なるほど」

はじめて、隣の席の田島くんとちゃんと話をした時だった。

あれからこんなに、田島くんと行動を共にせざるをえなくなるなんて思わなかった。

今は田島くんの風の恩恵を受けたいから、彼の左腕に俺の右腕が当たりそうなほど近づいた。


パタパタと滑稽な安っぽい音と生ぬるい風、田島くん自身と制汗剤が混じる匂いがした。


俺も額から一筋、汗が垂れた。
ハンカチを出すのも面倒くさいから、腕で拭った。

「あら、ワイルド」

「まあね」

人が少ない通学路。
仄暗い空と遠くで犬が鳴いていた。

ここから、花火大会まで、ずっと2人だけ。

雨の中、傘をさしたあの時も、2人だけの世界だった。

教室という狭い世界から、外に出ていっても、
傘がなくて、空までの距離はすごく遠い。

それだけ広い空間の中にいるはずなのに、どうして、2人しかいない気がするのか。分からなかった。