「…よし、ほな仕事しよか」

また、いつもみたいに俺に向ける顔は、やっぱり木本くんに向けるそれよりも優しい。
それが、まだ関係性が浅い証拠だった。


「うん」

一ヶ月なんかで埋められるわけでもないから
俺もまたいつもみたいに、田島くんが言うほんまの笑顔なんかじゃない笑顔で笑った。

また、静かになった教室に、紙が擦れる音が続く。

絶対、この量が1日で終わらないって気がついたのは、外がまだ明るいけど、日が傾いてきた気配がする18時半だった。


「あ~あ、俺が先生に呼ばれんかったら作業終わってたのにな」

「いや、多分無理だったよ」

「残り、どうする?いつやる?」

「うーん、明後日とか?1回、作業について忘れたい。トラウマになるわ」

永遠に終わりが来ないんじゃないかと思った作業も2/3は終わった。途中からロボになって、感情を失って手だけが動く感覚があった。一旦仕事から離れたい。

「俺ももう止めたい。今日はもう帰ろ」


二人して、伸びをした。

グラウンドからはまだまだ運動部の掛け声と、どこかの教室からトランペットやトロンボーンの二重奏が響いていた。


「ジュースじゃんけん、するで」

伸びをして立ち上がった田島くんは、右の握りこぶしを俺に突き出す。

「俺がそろそろ勝つ」

「ほな俺チョキ出すわ」

「じゃあ俺はグー出す」


じゃんけん、と掛け声までの心理戦すらお決まりになるほど、俺たちは楽しんでこの恒例行事に取り組んでいた。

「ガッ!負けた!」

「よっしゃ!今日はアイスココアね」

田島くんがパー、俺がチョキ、と全く宣言と違う手を出して決まった今日の試合、俺の勝ちだった。

「うぃー。俺はコーヒー」

自動販売機に渋々向かう田島くんの後ろをニヤニヤとしながらついていくのも、日によって、二人の立場が入れ替わることもあるけど、お決まりだった。