「まあ、色々あるっすよね。人生」

木本くんはそこを掘り下げず、主語をでかくして、話題を濁した。
サッカーをしていた時の小学生の俺と
今の俺を見て、木本くんはどっちの俺のほうがイメージに近いんだろうか。
そこら辺にいる泥まみれになりながら走りまくるクソガキと
優しい、女の子に囲まれて穏やかに過ごすヘラヘラした男


大きく開かれた二重の奥に俺が虚像として映る。
キラキラと眩しいくらいに潤った目は、汚い物をみたことないんじゃないかと感じるくらい美しかった。

不意に逃げたくなって目を逸らした。
田島くんとは違う、底のないあどけなさの残る目は、俺には眩しい。

「木本くんは、田島くんと仲いいの?」
逃げた目線は作業中の手元へ。
全くさっきから仕事が進んでないから、慌てて手を動かす。
コレじゃ夜までかかる。

「勿論っす!めちゃめちゃ面倒見てもらってました!」

にぱー、と笑う声はまだ声変わりが安定しきってないのか、カサカサとひっくり返りそうな不安定さががあった。確かに可愛がりたくなる。

「いや、でもまさか一輝さんが若王子さんと仲いいなんて」

「仲いいかどうかは分かんない」

「いやいや、一輝さんが誰かとセットで動くって珍しいと思うっすよ。誰とでも仲いいのが一輝さんっすから」

口角が少し上がりそうになるのを隠したくて、生ぬるいいちごミルクを飲んだ。


「若王子さんはなんでサッカー辞めちゃったんすか?やってたらうちの高校、推薦で入れたでしょ」

「え?…ナイショ。木本くん、暇なら手伝いしてよ。パンフレット畳み」

「えー、やっぱり噂通り、口上手いっすね」

「どんな噂か知らないけどさ」

初めて会った気がしないくらい、壁を打ち壊すのが上手な木本くんは、本当に全先輩から愛されてるんだろうなって思う。

俺が口が上手いわけ、ないのに。