「ほな、いこかー」

玄関を抜けて、先に、夕日を浴びるように背伸びをした田島くん。
彼が陽を浴びると影はもっと長くなった。
夕方といえども、夏は日が長いから、時間感覚がおかしくなる。
俺はまだ下駄履で、ローファーにつま先を詰め込んでいた。

革がだいぶ柔らかくなったローファーで、地面を蹴る。
つま先まで力が入りやすい。
そうか、夏休みに学校に来てるから、いつもよりローファーを履くから柔らかくなったのか。
心も少し柔らかくなった気がした。
それは田島くんが俺を振り回してくれるから。

「え、どこへ」

「花火大会。電車は今ごろラッシュやろから、一駅歩こうぜ」

俺が横に並ぶまで待っていた彼は、リュックサックを背負い直した。

「俺、よく見える穴場知ってるよ」

「まじ?やっぱり元カノ情報?」

「…やっぱやめようかな。教えるの」

「あーん、うそうそ。ごめん。若王子くんと2人ならどこで見ても楽しいわ」


歩幅がほぼ同じだから、隣を歩いても置いていったり、置いていかれたりというストレスがない。


いつもは校門をくぐれば話すことなく別れるのに、今日は同じ向きに出ていった。